第29話 補給路の死闘
轟音。
補給路の岩場が砕け散る。
黒狼――西園寺士郎。
血刃のゼクト。
二人の怪物が真正面から激突していた。
拳。
魔剣。
衝撃波だけで周囲の岩盤が崩れていく。
◇
ゼクトの斬撃が走る。
黒い刃。
空間ごと裂く魔剣の一撃。
士郎は身体を捻って回避。
頬が裂ける。
血が飛ぶ。
だが止まらない。
踏み込む。
拳。
ドゴォォォン!!
ゼクトの腹へ直撃。
鎧が砕ける。
ゼクトが吹き飛ぶ。
だが。
着地と同時に笑った。
「最高だ!!」
完全に楽しんでいた。
士郎も同じだった。
強い。
殺されるかもしれない。
その感覚が、身体を熱くする。
◇
ゼクトが魔剣を構える。
魔力が膨れ上がる。
周囲の空気が軋む。
「黒狼」
「なんだ」
「貴様、本当に人間か?」
士郎は即答する。
「知らん」
ゼクトが笑う。
「だろうな!!」
次の瞬間。
ゼクトが消えた。
速い。
今まで以上。
魔剣が士郎の胸を裂く。
血飛沫。
だが。
士郎はゼクトの腕を掴んでいた。
ゼクトの目が見開かれる。
「なに――」
士郎が頭突きを叩き込む。
轟音。
ゼクトの額が割れる。
さらに膝蹴り。
肋骨粉砕。
ゼクトが血を吐きながら後退る。
士郎は追う。
止まらない。
戦場へ来てから、身体が軽い。
もっと死に近づける。
もっと壊し合える。
そんな感覚があった。
◇
その頃。
グランゼル要塞。
アレスたちは補給路の方角を見ていた。
遠くの山が揺れている。
レオンが顔をしかめる。
「また派手にやってるな……」
リゼは不安そうだった。
嫌な予感がする。
士郎が。
どんどん遠くへ行っている気がした。
◇
補給路。
ゼクトが魔剣を地面へ突き刺す。
瞬間。
巨大な黒い魔法陣が展開された。
士郎の目が細くなる。
「またそれか」
「今度は違う」
ゼクトが笑う。
「貴様専用だ」
魔力が爆発する。
無数の黒刃。
全方位攻撃。
逃げ場はない。
山一帯が飲み込まれる。
だが。
士郎は笑った。
「いい」
真正面から突っ込む。
黒刃が身体を裂く。
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
ゼクトの眼前へ到達。
拳。
ドゴォォォォン!!!
ゼクトの身体が吹き飛ぶ。
岩壁へ激突。
山が揺れる。
ゼクトは血を吐きながら立ち上がる。
そして。
初めて。
本気の殺意を向けた。
「……貴様」
士郎の全身から、微かに黒い靄が漏れる。
ほんの僅か。
だが。
ゼクトは見逃さなかった。
赤い瞳が細くなる。
「やはりか」
「?」
「貴様、人間では終わらん」
士郎は眉をひそめる。
意味が分からない。
だが。
その瞬間。
遠くで角笛が鳴り響いた。
魔族軍の撤退信号。
ゼクトが舌打ちする。
「時間切れか」
士郎が前へ出る。
「逃がさん」
だが。
ゼクトは笑った。
「次はもっと殺し合える」
黒い魔力が噴き上がる。
視界が歪む。
そして。
ゼクトの姿が消えた。
転移魔法。
静寂。
士郎はその場に立っていた。
全身血まみれ。
だが。
笑っている。
楽しかった。
心の底から。
その時。
背後から足音。
グランたちだった。
傭兵たちは、崩壊した山を見て絶句する。
「……なんだよこれ」
補給路一帯が消し飛んでいた。
士郎は静かに言う。
「逃げられた」
グランが乾いた笑いを漏らす。
「いや十分だろ……」
補給部隊の生き残りたちは、震えながら士郎を見ていた。
感謝ではない。
恐怖。
目の前にいるのは英雄じゃない。
戦場そのものだ。
その夜。
魔族軍では、“黒狼警戒令”が出された。
単独で戦線を崩壊させる危険存在。
遭遇時は複数部隊で対処。
必要なら撤退を許可。
人類ではなく。
魔族側が。
西園寺士郎を恐れ始めていた。




