第28話 黒狼襲撃
夜襲から翌朝。
要塞都市グランゼルは、異様な空気に包まれていた。
兵士たちは疲弊しきっている。
だが同時に
希望も生まれていた。
黒狼。
あの男がいる限り、前線はまだ崩れない。
そう思い始めていた。
◇
食堂。
兵士たちが小声で話している。
「見たか昨日の……?」
「ワイバーンを殴り落としやがった」
「化け物だろあれ」
「でも、あいつがいなかったら終わってた」
恐怖と信頼。
両方が混ざっていた。
だが。
士郎本人は気にしていない。
いつものように大量の肉を食っている。
リゼが呆れる。
「ほんと朝からよく食べるね……」
「腹が減る」
最近さらに酷い。
戦えば戦うほど飢える。
身体の奥が何かを求めていた。
その時。
要塞内へ兵士が飛び込んできた。
「た、大変です!!」
空気が変わる。
アレスが振り向く。
「何があった」
兵士は顔面蒼白だった。
「西側補給部隊が壊滅しました!!」
ざわめき。
補給線。
前線の命綱。
それが潰された。
アレスの顔が険しくなる。
「敵は」
兵士が震える声で答える。
「……一人です」
沈黙。
全員の顔が変わる。
一人?
そんな馬鹿な。
兵士は続ける。
「生存者の証言では、赤い鎧の魔族が……」
士郎の目が細くなる。
ゼクト。
アレスが舌打ちした。
「狙ってきたか……!」
補給線を断てば、人類軍は長く持たない。
しかも
ゼクト自ら動いている。
完全に本気だった。
◇
会議室。
地図が広げられる。
補給路は既に危険地帯になっていた。
兵士たちの顔色は悪い。
「このままじゃ三日も持たん」
「補給部隊を再編するしか……」
だが。
誰もゼクト討伐を口にしない。
無理だからだ。
アレスが静かに言う。
「俺が出る」
空気が張り詰める。
王国最強騎士。
その言葉の重み。
だが。
士郎が口を開いた。
「俺が行く」
全員が振り向く。
リゼが慌てる。
「ちょっと!」
アレスが士郎を見る。
「一人で行く気か」
「ああ」
「相手はゼクトだ」
士郎は少しだけ笑う。
「丁度いい」
その笑みに、兵士たちの背筋が寒くなる。
この男。
本当に戦いしか頭にない。
アレスは数秒黙った。
やがて。
「……好きにしろ」
止めても無駄だと理解していた。
◇
夕方。
補給路。
焼けた馬車。
死体。
血。
ゼクトの仕業だった。
士郎は静かに歩く。
風が吹く。
その時。
「来たか」
声。
前方の岩場。
血刃のゼクトが座っていた。
赤黒い鎧。
巨大な魔剣。
そして。
獰猛な笑み。
ゼクトは立ち上がる。
「待っていたぞ、黒狼」
士郎は静かに見る。
「補給線潰しか」
「戦争だからな」
ゼクトは笑う。
「人間どもはすぐ飢える」
士郎は答えない。
ただ
殺気だけが膨れ上がっていく。
ゼクトが楽しそうに言う。
「貴様と戦ってから、退屈しなくなった」
「そうか」
「だから今日は――」
ゼクトが魔剣を抜く。
轟音。
周囲の岩が砕ける。
「殺し合おう」
士郎が拳を握る。
黒いコートが揺れる。
そして。
笑った。
「いいぞ」
次の瞬間。
二人が同時に地面を蹴った。




