第27話 夜襲
北方戦線。
戦いは終わらない。
ゼクト撃退から三日後。
人類軍は辛うじて防衛線を維持していた。
だが。
空気は重い。
兵士たちは理解している。
魔族軍は、また来る。
しかも次は。
もっと激しく。
◇
夜。
要塞都市グランゼル。
兵士たちが見張りを続ける中、士郎は城壁の上に立っていた。
風が冷たい。
遠くには魔族軍陣地の灯火。
士郎は静かに見つめる。
リゼが後ろから来る。
「また外見てる」
「ああ」
「眠らないの?」
「必要ない」
リゼが呆れ顔になる。
だが。
士郎の目は戦場だけを見ていた。
静かすぎる。
嫌な空気。
その時だった。
士郎の目が細くなる。
「来る」
「え?」
次の瞬間。
轟音。
要塞外壁が爆発した。
悲鳴。
警鐘。
兵士たちが叫ぶ。
「敵襲!!」
「魔族軍だぁぁぁ!!」
リゼの顔が青ざめる。
「うそ……夜襲!?」
城壁の外。
闇の中から、無数の魔族兵が現れる。
さらに。
大型魔獣まで混ざっていた。
完全奇襲。
兵士たちは混乱する。
「は、早すぎる!!」
「迎撃準備が――」
その時。
士郎はもう動いていた。
黒いコートが翻る。
城壁から飛び降りる。
轟音。
リゼが叫ぶ。
「待って!!」
だが士郎は止まらない。
戦場へ突っ込む。
◇
要塞正門。
魔族軍が雪崩れ込んでくる。
兵士たちは押されていた。
数が多すぎる。
その時。
先頭の魔族兵の頭が潰れた。
轟音。
血飛沫。
黒いコートの男。
士郎。
魔族兵たちが怯む。
「……黒狼」
噂は魔族側にも広がっていた。
ゼクトと渡り合った人間。
戦場の怪物。
士郎は静かに言う。
「雑魚が多いな」
魔族兵たちが怒号を上げる。
一斉突撃。
だが。
士郎は止まらない。
拳。
蹴り。
肘。
人体破壊術。
それを魔族へ叩き込む。
顔面が潰れる。
骨が砕ける。
胴体が吹き飛ぶ。
魔族兵たちが次々倒れていく。
戦場がざわつく。
「あれが黒狼か……!」
「一人で押し返してるぞ!」
士郎は笑っていた。
戦場の真ん中で。
血を浴びながら。
◇
その時だった。
空から影が落ちる。
巨大。
翼。
兵士たちが絶叫する。
「ワイバーン!!」
飛行型魔獣。
しかも三体。
要塞上空から炎を吐く。
建物が燃える。
悲鳴が響く。
リゼの顔が青ざめる。
「まずい!!」
兵士たちは対空準備が間に合わない。
だが。
士郎は地面を蹴った。
轟音。
跳躍。
兵士たちの目が見開かれる。
「は……?」
士郎は空中へ飛んでいた。
常識外れの脚力。
そのまま。
ワイバーンの顔面へ拳を叩き込む。
ドゴォォォォン!!
頭部粉砕。
巨体が墜落する。
地面が揺れる。
残る二体が咆哮。
炎を吐く。
士郎は空中でワイバーンの死体を蹴り、さらに跳ぶ。
兵士たちはもう声も出ない。
士郎が二体目へ到達する。
肘打ち。
首が折れる。
最後の一体は逃げようとした。
だが遅い。
士郎が翼を掴む。
そのまま
地面へ叩き落とした。
轟音。
ワイバーンが潰れる。
静寂。
兵士たちは完全に固まっていた。
飛竜を。
素手で。
しかも空中戦で。
アレスが呟く。
「馬鹿げてる……」
◇
夜襲は崩れ始めていた。
黒狼が一人いるだけで、戦線が変わる。
魔族兵たちの顔に恐怖が浮かぶ。
「退け!!」
「黒狼がいる!!」
士郎は血を払う。
その時。
遠く。
戦場奥。
濃い殺気。
士郎の目が細くなる。
知っている気配。
血刃のゼクト。
闇の向こうで
魔族軍幹部が、静かにこちらを見ていた。
そして。
笑った。




