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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第二章 『血塗れの傭兵編』

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第26話 勝利の代償

魔族軍が撤退した後も

戦場には死臭が残っていた。


壊れた武器。

焼けた地面。

無数の死体。


勝利。


確かに人類軍は生き残った。


だが。


代償は大きすぎた。


兵士たちは無言で仲間の死体を運んでいる。


泣く者。


呆然と座り込む者。


怒鳴る者。


戦争だった。



その中心。


士郎は静かに座っていた。


血まみれのまま。


黒いコートもボロボロ。


それでも

周囲の兵士たちは誰も近づかない。


怖い。


魔族軍幹部を殴り飛ばした男。


人間離れしすぎていた。


リゼだけが近づく。


包帯を持ちながら。


「動かないで」


士郎が見る。


「必要ない」


「ある!!」


リゼが怒鳴る。


兵士たちがびくっと震えた。


リゼは士郎の腕を見る。

裂傷。

火傷。

普通なら死んでいる傷。


なのに、この男は平然としている。


リゼは唇を噛む。


「なんでそんな無茶するの……」


士郎は少し考える。


そして。


「楽しかった」


リゼが固まる。


士郎は本気だった。


ゼクトとの戦い。


久しぶりに、自分を殺せそうな相手だった。


だから

楽しかった。


リゼは顔を伏せる。


「……やっぱり変だよ、士郎」


その言葉に

士郎は何も答えなかった。



夜。


北方要塞グランゼル。


勝利したはずなのに、空気は重い。


兵士たちは理解していた。


今日の勝利は、“黒狼”がいたからだと。


つまり。


もしあの男がいなければ。


全滅していた。


酒場では兵士たちが小声で話していた。


「見たか……?」


「ゼクトを殴り飛ばしやがった」


「本当に人間か?」


「いや、あれはもう……」


化け物。


その言葉を、誰も口には出さなかった。


だが全員思っていた。



要塞上層。


アレスは窓の外を見ていた。


後ろにはグラン。


アレスが低く言う。


「危険だな」


「今さらだろ」


「強さじゃない」


アレスの顔は険しい。


「あいつは、戦場に馴染みすぎている」


グランは黙る。


同感だった。


士郎は戦場へ来てから、明らかに変わった。


殺し合いの中で、生き生きしている。


まるで

そこが本来いるべき場所みたいに。


アレスは続ける。


「もし敵に回れば……」


その先を言わなくても分かる。


グランは苦笑する。


「だからって止まる奴じゃない」


アレスも理解していた。


西園寺士郎は、誰かに従う人間じゃない。



深夜。


士郎は一人で要塞外へ出ていた。


静かな夜。


冷たい風。


遠くには、まだ死体を燃やす炎が見える。


士郎は空を見る。


不思議だった。


前の世界でも。


戦場に立つと落ち着いた。


殺し合いの中だけが、生きている実感を与えてくれた。


この世界でも同じ。


いや

もっと強い。


戦えば戦うほど。


身体の奥が熱くなる。


何かが満たされる。


そして同時に。


飢える。


もっと強い敵を。


もっと激しい戦いを。


士郎は拳を握る。


その時だった。


背後から声。


「眠れんのか」


グランだった。


酒瓶を持っている。


士郎は振り返らない。


「ああ」


グランは隣へ座る。


しばらく沈黙。


やがて笑った。


「お前、本当に傭兵向きだな」


「そうか」


「戦場を怖がらねぇ」


士郎は静かに言う。


「怖がる理由がない」


グランは苦笑した。


普通は違う。


戦場は怖い。


死ぬ。


仲間も死ぬ。


だから酒を飲む。


叫ぶ。


狂う。


だが

士郎にはそれがない。


最初から壊れているみたいに。


グランは空を見ながら呟く。


「黒狼か……」


その異名。


今では北方戦線全域に広がり始めていた。


魔族を殴り殺す怪物。


戦場を一人で変える男。


そして。


魔族軍ですら恐れ始めている存在。


その頃。


魔族軍陣地。


血刃のゼクトは、治療を受けながら笑っていた。


部下の魔族が困惑する。


「なぜ笑うのです」


ゼクトは静かに言った。


「見つけた」


赤い瞳が細くなる。


「本物の怪物をな」

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