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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第二章 『血塗れの傭兵編』

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第25話 黒狼突破

戦場が震えていた。


血刃のゼクト。


魔族軍幹部。


その本気。


赤黒い紋様が全身を覆い、溢れた魔力だけで地面が砕けていく。


兵士たちは後退ることしかできない。


「化け物だ……」


「これが幹部級……!」


だが。


その怪物を前にして。


士郎は笑っていた。


黒い瞳が細くなる。


「いい殺気だ」


ゼクトの口元が歪む。


「貴様もな」


次の瞬間。


二人が同時に消えた。


轟音。


拳と魔剣が激突する。


衝撃波で周囲の兵士が吹き飛ぶ。


速すぎる。


誰も追えない。


アレスですら、辛うじて見えている程度。



ゼクトの斬撃が士郎を裂く。


血飛沫。


だが。

士郎は止まらない。


拳を叩き込む。


ゼクトの肋骨が砕ける。


さらに膝蹴り。


顎が跳ね上がる。


ゼクトが笑う。


「素晴らしい!!」


魔剣を振るう。


黒い斬撃が連続で放たれる。


地面が裂ける。


士郎は避けながら前へ出る。


最短距離。


最小動作。


まるで殺すためだけに存在している動き。


ゼクトの目が細くなる。


「貴様……何人殺してきた」


士郎は即答した。


「覚えてない」


その答えに。


ゼクトは本気で笑った。


「ははは!! 最高だ、人間!!」


戦場が揺れる。


二人の戦いは、もはや人智を超えていた。



後方。


リゼは震えていた。


怖い。


ゼクトも。


そして。


士郎も。


今の士郎は、ルーガスにいた頃と違う。


戦場に出てから。


どんどん危うくなっている。

グランが低く呟く。


「……飲まれてるな」


「え?」


「戦場に」


士郎は戦いを楽しみすぎている。


血。

死。

殺し合い。


そこへ適応しすぎている。


それが異常だった。



戦場中央。


ゼクトが距離を取る。


全身血まみれ。


だが笑っている。


士郎も同じだった。


傷だらけ。


それでも。


まだ前へ出る。


ゼクトが低く言う。


「貴様、人間をやめる気はないか」


士郎の目が細くなる。


「なんだそれは」


「魔族になれと言っている」


魔族軍がざわつく。


幹部自らの勧誘。


異例だった。


ゼクトは続ける。


「貴様ほどの怪物、人間側には似合わん」


士郎は少し黙る。


そして。


「断る」


即答。


ゼクトが笑う。


「だろうな」


次の瞬間。


ゼクトの魔力が爆発した。


空が黒く染まる。


巨大な魔法陣。


アレスの顔色が変わる。


「まずい!!」


ゼクトが魔剣を掲げる。


「死ね、黒狼」


超高密度魔力。


戦場殲滅級。


兵士たちが絶望する。


だが。


士郎は笑っていた。


「それで終わりか?」


ゼクトの瞳が細くなる。


魔剣が振り下ろされた。


黒い奔流。


全てを飲み込む破壊。


だが。

士郎は真正面から突っ込んだ。


轟音。


魔力の嵐を突破する。


皮膚が裂ける。

血が飛ぶ。

それでも止まらない。


そして。


ゼクトの眼前へ到達する。


ゼクトが初めて目を見開いた。


「な――」


士郎の拳が突き刺さる。


ドゴォォォォォン!!!


衝撃。


ゼクトの身体が吹き飛ぶ。


地面を削りながら数百メートル先まで転がった。


沈黙。


戦場全体が止まる。


魔族軍幹部。


血刃のゼクト。


それを。


人間が真正面から叩き潰した。


士郎は血を払う。


呼吸は荒い。


全身ボロボロ。


だが。


倒れない。


ゼクトがゆっくり立ち上がる。


顔は砕け、片腕も潰れていた。


それでも笑っている。


「……はは」


赤い瞳が士郎を見る。


「やはり貴様は、化け物だ」


士郎は答える。


「お前も悪くない」


ゼクトは魔剣を肩へ担ぐ。


そして。


踵を返した。


魔族軍がざわめく。


「ゼクト様!?」


ゼクトは振り返らない。


「今日はここまでだ」


魔族軍が撤退を始める。


人類軍は呆然としていた。


勝った。


黒狼が。


魔族軍幹部を退けた。


兵士たちが士郎を見る。


恐怖。


畏怖。


そして。


狂気を見る目。


士郎は静かに戦場を見渡す。


死体の山。


血の海。


その光景を見ながら。


ほんの少しだけ。


笑っていた。

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