第24話 戦場の悪魔
轟音。
戦場中央で、士郎とゼクトが激突する。
拳。
魔剣。
衝撃波。
周囲の兵士たちは近づけない。
いや。
近づいた者から死ぬ。
人類軍も魔族軍も、戦いの手を止めていた。
視線は一点。
黒狼と血刃。
二体の怪物へ。
◇
ゼクトの魔剣が唸る。
連続斬撃。
空間ごと裂くような黒刃。
士郎は避ける。
紙一重。
そして。
踏み込む。
拳。
ドゴォォォン!!
ゼクトの脇腹へ直撃。
鎧が砕ける。
だが。
ゼクトは笑った。
「素晴らしい!!」
魔剣を振り抜く。
士郎の肩が裂ける。
血飛沫。
普通なら腕ごと飛ぶ斬撃。
それでも士郎は止まらない。
肘打ち。
膝蹴り。
人体破壊術。
それを、魔族軍幹部へ叩き込む。
ゼクトの口から血が漏れる。
だが。
笑みは消えない。
完全に戦いを楽しんでいた。
◇
戦場後方。
アレスは険しい顔で戦いを見ていた。
「……異常だ」
グランが苦笑する。
「今さらか」
違う。
強さだけじゃない。
士郎は戦場へ適応しすぎている。
死体。
悲鳴。
血の匂い。
普通の人間なら狂う環境。
なのに。
あの男は、むしろ生き生きとしている。
まるで。
戦場こそ本来いるべき場所みたいに。
リゼは唇を噛む。
士郎の顔。
笑っていた。
楽しそうに。
その表情が少し怖かった。
◇
ゼクトが後退する。
鎧は砕け、全身血まみれ。
それでも立っている。
魔族軍幹部。
化け物。
だが。
目の前の人間は、もっと異常だった。
ゼクトが低く笑う。
「人間でここまで来たか」
士郎は血を拭う。
「まだやれるだろ」
「当然だ」
ゼクトの魔力が膨れ上がる。
空が黒く染まる。
魔族軍が歓声を上げた。
「ゼクト様!!」
「殺せぇぇぇ!!」
ゼクトが魔剣を掲げる。
「見せてやる」
黒い魔力が収束する。
巨大。
重い。
戦場そのものが震えていた。
アレスの顔色が変わる。
「全軍下がれ!!」
兵士たちが慌てて後退する。
次の瞬間。
ゼクトが振り下ろした。
黒滅斬。
巨大な黒刃が大地を切り裂く。
城壁級の破壊。
直撃すれば消し飛ぶ。
だが。
士郎は避けなかった。
真正面。
拳を握る。
そして。
殴った。
轟音。
黒刃が砕け散る。
衝撃波で戦場が吹き飛ぶ。
兵士たちが絶句した。
「は……?」
「魔法を……拳で……?」
ありえない。
ゼクトの最大級魔術。
それを。
魔力なしで破壊した。
士郎は静かに歩く。
黒いコートが揺れる。
血まみれ。
それでも。
止まらない。
ゼクトの目が細くなる。
初めて。
本能的な危機感が走っていた。
士郎が踏み込む。
速い。
今までよりさらに。
拳。
ドゴォォォォン!!
ゼクトの顔面が歪む。
そのまま地面へ叩きつけられる。
大地が陥没した。
魔族軍が静まり返る。
ゼクトが。
押されている。
士郎は見下ろす。
「終わりか?」
ゼクトは血を吐きながら笑った。
「……いい」
魔剣を支えに立ち上がる。
赤い瞳が士郎を捉える。
「本当に気に入った」
殺気が膨れ上がる。
周囲の魔族兵たちが震え始める。
ゼクトはまだ本気じゃなかった。
アレスが低く呟く。
「まだ上があるのか……」
ゼクトの身体から、黒い魔力が噴き出す。
鎧が砕ける。
肌へ赤黒い紋様が浮かぶ。
変貌。
魔族本来の力。
兵士たちが青ざめる。
「な、なんだあれ……!」
ゼクトが笑う。
「次で殺す」
士郎も笑った。
獰猛に。
「やってみろ」
その瞬間。
士郎の背後で、黒い靄が微かに揺れた。




