第22話 血の戦場
翌朝。
北方戦線最前線。
空は灰色だった。
雨が降りそうな重い雲。
その下で。
人間と魔族が殺し合っている。
怒号。
悲鳴。
爆音。
血の匂い。
士郎は城壁の上から戦場を見下ろしていた。
数万規模。
前の世界でも見慣れた光景。
だが違う。
この世界には魔法がある。
炎が飛ぶ。
雷が落ちる。
巨大な魔獣が暴れる。
戦場そのものが地獄だった。
リゼの顔は青い。
「こんなの……」
グランが笑う。
「戦争なんてこんなもんだ」
士郎は静かに戦場を見る。
悪くない。
死が近い。
殺意が濃い。
人間の本性が全部出る。
その空気が、妙に落ち着いた。
◇
その時。
警鐘が鳴り響く。
「左翼崩壊!!」
兵士が叫ぶ。
「魔族軍が突破してきます!!」
要塞内が騒然となる。
アレスが即座に指示を飛ばした。
「第三騎士団を回せ!」
「間に合いません!!」
グランが舌打ちする。
「早すぎる……!」
士郎は静かに立ち上がる。
「行くか」
リゼが振り向く。
「え?」
士郎は城壁の外を見る。
そこには。
人類側を蹂躙しながら進軍する魔族軍。
数百。
さらに先頭には、大型魔族がいた。
三メートル級。
黒い鎧。
巨大剣。
兵士たちが次々斬り殺されていく。
士郎の口元が僅かに歪む。
「少しは楽しめそうだ」
次の瞬間。
士郎が城壁から飛び降りた。
「なっ!?」
リゼが悲鳴を上げる。
十数メートル。
普通なら即死。
だが士郎は地面へ着地すると、そのまま魔族軍へ突っ込んだ。
轟音。
黒いコートが翻る。
兵士たちが呆然とする。
「あいつ一人で行ったぞ!?」
「馬鹿か!?」
違う。
馬鹿じゃない。
化け物だ。
◇
魔族軍。
先頭の大型魔族が笑っていた。
「ニンゲン、ヨワイ」
巨大剣を振るう。
兵士の身体が両断される。
絶望。
だが。
次の瞬間。
大型魔族の顔が横へ吹き飛んだ。
轟音。
巨体が数メートル滑る。
魔族たちが止まる。
黒いコートの男が立っていた。
士郎。
大型魔族が血を吐きながら立ち上がる。
「……ナンダ、キサマ」
士郎は静かに言う。
「黒狼だ」
次の瞬間。
地面を蹴る。
爆発音。
士郎が大型魔族の懐へ潜り込む。
拳。
ドゴォォォン!!
腹部陥没。
さらに肘打ち。
顎粉砕。
最後。
膝蹴り。
首が折れた。
大型魔族が崩れ落ちる。
沈黙。
魔族軍が固まる。
強い。
今の大型魔族は、普通の兵士では相手にならない。
それを。
一瞬。
士郎は周囲を見る。
数。
配置。
殺気。
そして。
笑った。
「来い」
魔族軍が咆哮する。
一斉突撃。
剣。
槍。
魔法。
だが。
士郎は止まらない。
拳で顔面を潰す。
蹴りで胴体を砕く。
投げる。
踏み潰す。
人体破壊術。
それを魔族へそのまま叩き込む。
戦場が静まり返る。
人類軍も。
魔族軍も。
全員が見ていた。
黒いコートの男。
一人だけで。
戦場を蹂躙している。
兵士の一人が震える声で呟く。
「なんだよ、あれ……」
アレスも黙って士郎を見ていた。
強い。
だが。
それ以上に危険だった。
戦場に適応しすぎている。
まるで。
ここが本来いるべき場所みたいに。
◇
戦場中央。
士郎は血まみれで立っていた。
周囲には魔族の死体。
数十。
だが。
まだ足りない。
士郎は空気を感じる。
強い殺気。
遠く。
戦場奥。
そこに、“本物”がいる。
士郎の目が細くなる。
その時。
魔族軍が突然、左右へ割れた。
道ができる。
そして。
奥から、一人の男が歩いてくる。
長身。
赤黒い鎧。
腰には巨大な魔剣。
そして。
全身から溢れる濃密な殺気。
周囲の魔族たちが跪く。
リゼの顔が青ざめた。
「まさか……!」
アレスの目が鋭くなる。
「血刃のゼクト……!」




