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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第二章 『血塗れの傭兵編』

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第21話 北方戦線

北へ進むほど、景色は変わっていった。


焼けた村。


崩れた城壁。


放置された死体。


戦争の跡。


リゼは顔を曇らせる。


「ひどい……」


傭兵たちは慣れた様子だった。


誰も驚かない。

北方戦線では日常だからだ。


グランが馬車の上で言う。


「魔族軍は今年に入って一気に動き始めた」


「理由は」


士郎が聞く。


「知らん。だが妙だ」


グランの顔が険しくなる。


「今までの魔族軍とは動きが違う」


統率されている。


無駄がない。


まるで誰かが裏で全て操っているようだった。


士郎は興味なさそうに呟く。


「強い奴がいるんだろ?」


グランが笑う。


「まあな」


その言葉に、士郎の口元が僅かに歪んだ。



数日後。


北方要塞都市グランゼル。


巨大な防壁都市。


だが空気は最悪だった。


兵士たちは疲弊し、街には負傷者が溢れている。


怒号。

血の匂い。

死の空気。


戦場だった。


士郎は静かに周囲を見る。


「悪くない」


リゼが引いた顔をする。


「感想それ?」


城門前。


王国兵たちが傭兵団を迎える。


「“餓狼の牙”か」


「応援に来た」


兵士の視線が士郎で止まった。


黒いコート。

異様な威圧感。


そして腰に下げられた、黒雷ギルザードの牙。


兵士の顔色が変わる。


「……黒狼」


ざわめき。


噂は既に前線まで届いていた。


S級を素手で殺した怪物。


兵士たちの目に浮かぶのは、尊敬ではない。


恐怖。


グランが笑う。


「安心しろ」


「……」


「多分まだ味方だ」


兵士たちの顔がさらに引きつった。



要塞内部。


作戦会議室。


王国軍の指揮官たちは、傭兵団を露骨に嫌っていた。


「傭兵か……」


「信用ならん連中だ」


グランは鼻で笑う。


「金で戦う分、お前らより正直だ」


空気が悪くなる。


その時。


扉が開いた。


一人の男が入ってくる。


銀の鎧。

鋭い眼。

長身。


王国騎士団長――アレス。


部屋の空気が変わった。

傭兵たちですら、思わず口を閉ざす。


強い。

一目で分かる。


アレスの視線が士郎で止まる。


数秒。


沈黙。


そして。


「来たか、黒狼」


士郎は静かに見返す。


今まで会った人間の中で、一番強い。


アレスも理解していた。


この男は危険だと。


だが同時に。

今の戦場で必要な存在でもある。


アレスは地図を広げる。


「状況を説明する」


北方戦線。


現在、人類側は劣勢。


魔族軍は圧倒的な物量で侵攻を続けていた。


さらに。

アレスが地図の一点を指差す。


最前線砦。

そこへ赤い印が付いている。


「三日前、魔族軍幹部が現れた」


空気が重くなる。


兵士たちの顔が険しくなった。


アレスは低く言う。


「一夜で砦が落ちた」


沈黙。


要塞砦は簡単に落ちない。


それを一晩。


異常だった。


士郎が聞く。


「強いのか」


アレスは頷く。


「ああ」


そして。


「確認されているだけで、A級冒険者が七人殺されている」


リゼが息を呑む。


A級七人。


普通なら国家戦力。

それが壊滅。


アレスは静かに続ける。


「名は“血刃のゼクト”」


魔族軍幹部。


北方戦線最悪の怪物。


その瞬間。


士郎が笑った。


ほんの少し。


獰猛に。


アレスはその目を見る。


この男。

本当に戦いを楽しんでいる。


普通なら恐怖する話。


だが士郎にとっては違う。


“強い敵がいる”。


それだけで十分だった。


会議後。


アレスが士郎へ近づく。


「一つ忠告する」


「なんだ」


「ゼクトは危険だ」


士郎は答える。


「そうか」


「……聞いているのか?」


「問題ない」


即答。


アレスは眉をひそめる。

だが理解していた。


この男は、恐怖で止まる人間じゃない。


士郎は窓の外を見る。


遠く。


戦場の方角。


そこから濃い殺気が流れてきていた。


士郎は静かに呟く。


「早く殺り合いたいな」


その言葉に。


近くにいた兵士たちは、本気で背筋が寒くなった。

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