第16話 災害指定
オーガロード討伐から二日。
ルーガスの街は静かだった。
いや。
正確には、“静かすぎた”。
人々は黒いコートを見ると道を開ける。
冒険者たちは視線を逸らす。
誰も士郎へ近づかない。
恐れていた。
オーガロード。
A級危険種。
街一つ壊滅させる怪物。
それを。
あの男は、素手で殺した。
◇
冒険者ギルド。
士郎はいつもの席で肉を食っていた。
山盛り。
異様な量。
リゼが呆れ顔で言う。
「……ほんと、どれだけ食べるの」
「足りん」
士郎は淡々と答える。
最近、腹が減る。
異常なほど。
食っても満たされない。
身体の奥が、何かを欲していた。
その時。
ギルドの扉が開く。
入ってきたのは、王国騎士団。
前より人数が多い。
空気が張り詰める。
冒険者たちがざわついた。
「また来たぞ……」
「今度は何だ」
先頭に立つ騎士団長が、ダグラスへ書状を渡す。
ダグラスは目を通し、顔をしかめた。
「……はぁ」
レオンが聞く。
「悪い話か?」
「最悪だ」
ダグラスは士郎を見る。
「お前、“災害指定”されたぞ」
沈黙。
リゼが固まる。
「……え?」
騎士団長が低く言う。
「王国上層部は、西園寺士郎を“要警戒存在”として認定した」
ざわめき。
冒険者たちの顔が引きつる。
災害指定。
それは普通、人間に使う言葉じゃない。
巨大魔獣。
異常災害。
魔王級存在。
そういうものへ使われる分類。
騎士団長は士郎を見る。
「討伐命令ではない。現時点ではな」
「そうか」
士郎は興味なさそうだった。
その態度に、逆に騎士たちが緊張する。
この男。
本当に王国を恐れていない。
レオンが苦笑する。
「人間扱いされなくなってるぞ」
「前から似たようなもんだ」
士郎は肉を食い続ける。
だが。
ギルド内の空気は重い。
誰もが理解してしまった。
西園寺士郎は、もう普通の冒険者じゃない。
◇
その夜。
ルーガス郊外。
士郎は一人で座っていた。
崖の上。
月が見える。
風が吹く。
リゼが後ろから歩いてくる。
「またここにいた」
士郎は振り返らない。
リゼは隣へ座る。
少し沈黙。
やがて小さく言った。
「みんな、士郎を怖がってる」
「そうか」
「……気にならないの?」
士郎は少し考える。
そして。
「弱い奴は強い奴を怖がる」
当然のように言った。
リゼは困った顔をする。
「そういう話じゃなくて……」
士郎は空を見る。
前の世界でも同じだった。
誰も近づかない。
誰も理解しない。
強くなればなるほど、人は離れる。
それが普通だった。
だから。
別に何も感じない。
……はずだった。
リゼがぽつりと言う。
「でも私は、士郎が怖いだけじゃないよ」
士郎の目がわずかに動く。
リゼは続ける。
「危なっかしい」
「……」
「なんか、いつかどっか行っちゃいそう」
風が止まる。
士郎はしばらく黙っていた。
やがて。
「知らん」
それだけだった。
リゼは苦笑する。
「ほんと不器用」
その時だった。
遠く。
森の方角から轟音が響く。
地面が揺れた。
士郎の目が細くなる。
レオンたちも街から飛び出してくる。
「今のは……!」
騎士団がざわつく。
森。
北方山域。
そこから、異常な魔力反応が発生していた。
空気が重い。
兵士の一人が青ざめる。
「な、なんだあれ……」
遠くの空が、黒く染まり始めていた。
ダグラスの顔が険しくなる。
「まさか……」
レオンが低く呟く。
「……S級か?」
沈黙。
誰も否定できない。
本能で分かる。
今までとは格が違う。
災害。
本物の怪物が目を覚ました。
その時。
士郎だけが、静かに笑った。
黒い瞳。
獰猛な笑み。
「やっとか」
その姿を見て。
リゼは初めて、背筋に寒気を覚えた。




