5話 ワシは素材を回収する
「ええっ!? どういうことですか? わ、私は何もしていませんよ?」
「クックック。さすがは神官。あの程度の雑魚なら、集団であろうと問題にもならなかったな」
レリアは納得のいかない顔をしていたが、思い出したようにワシを見ると突然頬を膨らませて怒り出した。
「そうでした、シド君! いきなり投げ飛ばすなんて酷いです! 私、死んだかと思いましたよ!」
「悪かったな。邪魔だったからどいてもらった」
「邪魔って、どうして邪魔なのですか! 酷いです。罰として巨鬼の解体を手伝ってくださいね。分かりましたか?」
「……仕方ないな」
レリアに指示されながら、ワシは巨鬼の素材を回収していく。作業中に延々と文句を並べ立てる彼女を見て、せめて一言断ってから投げるべきだったと少々後悔した。
驚いたのは、レリアが持っていた不思議な道具袋だ。見た目以上の容量があるらしく、解体された巨体の欠片が面白いように吸い込まれていく。
どうやら、袋の口を広げればある程度大きな物でも入る。つまり、解体すればどれほど巨大な魔物でも収まるようだ。さすがに巨鬼はそのままの状態では入らなかった。
ワシはその魔法の袋の仕組みを、興味深く観察していた。
「思ったより時間がかかりましたね。この巨鬼、聞いた話よりもずっと大きく感じます」
「ワシも、これほどの巨体を実際に目にしたのは初めてだ」
「とにかく、素材を売ったお金は後でちゃんと受け取ってください。どれだけ私が怖い思いをしたか分かりますか? 全く……」
「わ、分かった! だからその小言はもうやめてくれ」
渋々ながら、ワシは金を受け取ることを了承した。
金を受け取るということは、精算が終わるまでレリアと行動を共にするということになる。とはいえ、当面の目的は特にない。帝国へは「とりあえず行ってみるか」程度だ。急ぐ旅でもない。
しばらくはこの賑やかな神官に付き合うのも悪くないかと、勝手に納得することにした。
◇
村に戻ると、畑仕事の手を止めて休憩していた村長に声をかける。
「戻ったぞ。巨鬼はワシが片付けてきた。豚鬼どもも尻尾を巻いて逃げ去った」
「そ、それは本当か!? ……ということは、レリアがやってくれたのだな?」
「だから、ワシが倒したと言っているだろう」
村長は疑わしげな眼差しをレリアへ向けた。
彼女は困ったように、だが事実を伝えるべく口を開く。
「シド君の言う通りです。巨鬼は倒しました。ここに解体した素材もあります」
素材の一部を見せると、村長は驚愕に目を見開いた。
「おお! この赤い皮膚は……間違いない、巨鬼だ。例の手配書に書かれていた、最近現れたという新種だな」
「その手配書、誰からもらったのですか?」
「冒険者だよ。ほら、これだ」
手配書には、「巨大、赤肌、怪力」、そして「変異種」である可能性が記されていた。
名前だけは知識としてあった。
実物に出会うのは初めてで分からなかったが、やはり通常の巨鬼ではなかったのか。
これほど巨大で赤い皮膚のものはワシも見たことがなかった。
「普通の個体でも村が一つ全滅しかねんというのに、よりによって変異種だったとは……恐ろしいことだ」
「変異種……ごく稀に現れる強固な個体ですね。手配書が出るほどの強敵がどうしてこんな場所に。それに、あんな状態で転がっていたなんて……」
村長の怯えるような声に答えながらも、レリアの視線はワシに向けられていた。
片腕を負傷した子供であるはずのワシが、どうやってあの怪物をあそこまで無残な姿に変えたのか。
もしかしたら、その手配書を持って来た冒険者がとか考えていそうなのは見ていて分かる。
彼女の疑念は尽きぬようだが、どう思ったとしても倒したのはワシだ。
「だから言っているだろう。ワシが倒したのだと。そんな目をして見たところで事実は変わらんぞ」
「ええ、分かっています。別に疑ってはいませんが……」
「だがまあ、豚鬼どもを追い払ったのはレリアだ。さすがは神官様だな」
ワシはレリアに向けて親指を立ててみせる。
手柄を押し付けられた彼女の何とも言えない複雑な表情を見て、ワシは愉快に笑った。




