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歴戦将軍の二度目の無双 〜神に未来へ追放され少年になっても問答無用で我が道を行く~  作者: うららぎ


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27話 ワシは魔王と戦う④


 視界が現実へと戻る。


「ガアァァッ!?」


 盛大な破壊音と共に、玉座の間の瓦礫に埋もれていくルーファスの姿があった。

 どうやら精神世界で放った一撃は、現実で人型を保とうとしていた泥状の魔王ごとまとめて壁に吹き飛ばしていたらしい。


「……な、何をした……!? 私の精神世界から、自力で脱出したというのか!? バカな、あり得ん!」


 瓦礫の中から這い出したルーファスはドロドロの肉体を脈動させながら、徐々に人の形に戻りつつある。だが、その表情は焦りと強い苛立ちが見て取れた。


「貴様ぁ……抜け出せたからといって、随分と余裕そうな態度だな」

「だいぶ余裕がなくなったように見えるぞ。最初の余裕はどうした?」

 

 魔王(ルーファス)の濁った瞳が、ワシの疲労を探るかのようにねっとりと這い回る。

 精神世界を破った代償の疲労による息苦しさを必死に噛み殺し、ワシは不敵な態度のまま黒剣を構え直した。

 奴はワシの平静を崩そうと、再びレリアの名を出して侮蔑(ぶべつ)の言葉を吐き捨てる。

 

「あの出来損ないは最後まで私に逆らい、結局は中途半端で惨めな姿に成り果てた。その薄汚い血の混じった女を貴様は必死に守ろうというのか? 価値のないゴミのために命を捨てるか、小僧!」

「……」


 奴は言葉を重ねるたびに、レリアがいかに無能であったかを歪んだ悦びと共に語り続けた。

 彼女が受けてきた苦しみ、妹のために彼女が注いできた献身。

 それを全て「無駄だった」と断じる魔王(ルーファス)の言葉は、ワシの逆鱗を今度こそ完全に再起不能なまでに踏み抜いた。


「黙れ……」


 ワシの声は、地を這うような静かな響きだった。

 だが、その一言で広間の空気が物理的に凍りついた。

 魔王(ルーファス)は不吉な予感を感じたのか、慌しく再び地中から無数の眷属を呼び出しワシに向けて津波のような大軍を差し向けてきた。


「命をかけた戦いに卑怯だろうが狡猾だろうが、そんなもの勝てばいいと思っていたが……魔王(ルーファス)、お前だけは許すことはできん!」


 ワシの声は自分でも驚くほど冷たく、静かに『威圧』を放った。

 目の前の異形の存在を許さない、怒りの響きの中に芽生えたありったけの『殺意』を叩きつける。


「ぐ……っ! 小僧を殺せ! 塵一つ残さず喰らい尽くせ!!」


 魔王(ルーファス)の号令と共に、広間を埋め尽くすほどの恐ろしい数の眷属たちが一斉にワシに向かって襲いかかってきた。

 視界が黒く染まるほどの津波のような肉の壁が迫る。


 迎え撃つために、ワシは黒剣を静かに下段に構える。

 前衛を吹き飛ばしてから、魔王(ルーファス)の元まで最短で到着してトドメを刺す。


「いや……違うな」


 ワシは黒剣を上段に構えなおすと、思いっきり床の石に突き刺した。

 このいいようのない怒りをその程度で収めるな。

 全部だ、迫り来る大群ごと『すべて』を斬り刻まねば、気が収まらんのだ!

 腹の底で煮えたぎる気が荒れ狂い、怒りのあまりギリィィッと必要以上に強く柄を握りしめて振りぬいた。


 その瞬間だった。


 突き立てられた鞘の中からピィィィンと静寂を感じる時のような音を立てて黒剣が抜けた。

 今までどんなに力任せに引っ張ってもビクともしなかった黒剣の鞘が、まるで自らの意志を持っているかのように抜けたのだ。


 振り抜いたと同時に、目の前の眷属たちに線が入る。

 そして、ワシが自然に最初の一歩を踏み出した時だった。

 世界が一変する。


 まるで、時間だけが凍りついたかのような錯覚。

 襲いかかってくる眷属たちの動きが、宙に舞うホコリ一つに至るまで信じられないほどゆっくりと遅くなっていたのだ。


(……何だ、これは!?)


 驚くワシをよそに、異変はそれだけではなかった。

 思い通りに動かずもどかしかった身体も、黒剣の重さまでもがまるで鳥の羽根のように軽いのだ。

 ワシの身体は時が止まったかのような世界の中で、自分でも恐ろしくなるほどの超高速で泳ぐように動いている。

 初めて目にする漆黒の刃から発する歪みのない強い力を感じながらも、急かすように何かをけしかけているような感覚。止まったような時の流れに反して同時に何故か焦りすら感じていた。


 思考より先に、目の前に迫っていた眷属の一体へ抜き身の黒剣を振り抜く。

 それは奇妙な感覚だった。

 手応えがない。まず、肉を断ち切り骨を砕く感触がない。

 次に、斬られたはずの眷属の身体が分断されることすらなかった。


 まるで空気を斬ったかのような違和感だが、そんなことはどうでもよかった。

 怒りに身を任せたまま、ワシはその眷属に何度も何度も剥き出しの漆黒の刃を叩き込む。

 そして次の眷属へまた次の眷属へと、風のような速さで敵の群れをすり抜けながら次々と刃を浴びせていった。


 視界の先には、醜い笑みを浮かべたまま動きを止めている魔王(ルーファス)がいる。

 ワシは瞬きする間もなく、その懐へと潜り込んだ。


魔王(ルーファス)! これが、お前の最後だ!!」


 レリアを侮辱したことへの激しい怒りを全て漆黒の刃に乗せ、ワシは腕の限界すら忘れて剣を振るった。

 百、千、万……。

 数え切れないほどの怒りの分だけ、止まったような時間の中で魔王の身体を斬り刻む。


 そして、怒りを込めた最後の一撃を振り抜いた瞬間。

 ……凍りついていた世界の時間が、再び一気に動き出した。


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