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歴戦将軍の二度目の無双 〜神に未来へ追放され少年になっても問答無用で我が道を行く~  作者: うららぎ


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19話 ワシはレリアに過去を話した②


 ギルから聞いた情報によれば、剣聖は山に籠っているという。

 町から東方に位置するその山は、人を寄せ付けぬほど遠く険しい場所にあった。剣聖が世俗を離れた理由は、「外との関わりを絶ち、己の剣をより純粋に研ぎ澄ませることに集中したい」というものらしい。


 理由は違えどその言葉の端々にある想いには、ワシも納得ができた。

 戦いこそがすべてであったワシにとって、剣を振るい敵を倒すことこそが己を研ぎ澄ます唯一の手段だったからだ。

 戦えば戦うほど勝利を重ねれば重ねるほど周囲の注目は集まり、当然のように執拗なまでに命を狙われる。

 だが、相手から一方的に押し付けられる「お前(シド)を倒す」という剥き出しの殺意こそが、ワシをより強くより鋭く奮い立たせてくれた。

 牙を剥き出しにして向かってくる者たちの熱量だけが、唯一ワシの生の実感を繋ぎ止めていたのだ。

 向かってくるすべてを受けて、退ける。

 その果てに戦いにおける不変の信念が剣と共に宿り、形を成したのが今の己自身なのだと自負していた。


 ようやく辿り着いた山の麓。ワシは山頂に向けて、腹の底から大声を張り上げた。


「そこにいるのは分かっている! すぐに向かうから待っていろ!」


 それだけ言い放つと、ワシは一気に山頂へと駆け出した。

 数時間もかからず頂上へ到着すると、そこには剣聖とおぼしき人物が静かに佇んでいた。

 抜き身の剣を携えたまま微動だにせず構えている。


「ふん。ここまで声が聞こえていたぞ……貴様、鬼人(トロール)か!」

「誰が鬼人(トロール)だ! ワシの名はシド! 尋常に勝負しろ!」


 剣聖の無礼な物言いに、ワシは不快感を露わにして応じた。

 鬼人(トロール)といえば、巨体と馬鹿力、そして驚異的な再生能力を持つ醜悪な魔物だ。

 そんなものと同類に扱う剣聖に猛烈な怒りが湧き上がる。


 だが、ワシを見るなりそう言われるのも無理もないことではあった。

 元帝国最強の将軍であるワシに鬼人(トロール)とはよく言ってくれたものだ。この身を怪物と恐れた連中と同じ後悔を、今すぐ貴様の魂に刻み込んでやるぞ。


「人の言葉を理解するとは、恐ろしき進化を遂げたものよ!」

「貴様! 謝っても許しはせんぞ!」


 互いの咆哮を合図に、剣と剣が激突する。

 激突の瞬間、耳に響く金属音ではなく落雷のような重低音が山頂に轟いた。

 ただ、ワシの巨体に任せた質量のすべてを怪力に乗せて叩きつけるような一撃だ。

 凄まじい反動が走り、受けて流したはずの剣聖の体が地面を削りながら大きく後退していく。


「その剣……鞘から抜かんのか?」

「やかましい、もともとこういう形だ! 多分な!」


 ワシが握っているのは、刀身も鞘も漆黒に染まった無骨な黒剣だ。

 鞘に収まっているせいで厚手の刀身に見えるが、ワシはずっと鞘を付けたまま戦ってきた。

 長年愛用してきたこの黒剣は鍛冶師が『失敗作』として投げ出すようなものだと世間では言われている。

 練習用の壊れやすい剣のはずなのだが……何故か折れもせず、曲がりもしない。

 そして、この剣を抜かないわけではない。抜けない(・・・・)のだ。

 ゆえにワシは今日まで、鞘に収まったままのこの『鉄の棒』を振るい続けてきた。


「ふっ、やはりただの(けもの)だったか。獣らしく討伐してやろう」


 剣聖の構えが、ふっと消えた。

 見えたと思った時には、ワシの視界は鋭い光の線で埋め尽くされていた。

 剣聖の名に恥じない鋭い踏み込みと共に放たれた、神速の一撃。


 それはワシの巨体を軽々と弾き飛ばし、後方の岩壁を粉砕するほどの衝撃を伝えてくる。

 ワシは即座に体勢を立て直し、筋肉ごとぶつかるような力任せの突進に近い勢いで数回打ち合うが、ことごとく軽くいなされてしまう。

 これまで、この短い打ち合いをまともに演じられた者など、片手で数えるほどしかおらん。


 目の前の存在が、追い求めた希少な強者であること。

 この強者ならばワシのどんな攻撃も受け止めるものだと、その確信に魂が歓喜で震え上がった。


「……もう少し見てやるか」


 瞬間、剣聖の剣が閃いた。

 その一閃が五つの軌跡となって空を裂き、ワシへと襲いかかる。

 ワシは最小限の動きで、そのすべてを力技で弾き飛ばした。


 そのまま一歩踏み出して返しに放つ五連撃もまた、力による強引な一閃。

 それを難なく弾き剣聖は感心したような、それでいて不快そうに眉をひそめた。


「その雑な技は何だ! 貴様ぁ、期待させておいてやはりただの獣か!」

「黙れ! 小手先ばかりの軟弱者が、それでも剣聖か!」


 ここからが本番だと力を溜めたその時、剣聖は呆気なく剣を鞘に納めてしまった。

 まるで、興味を失った玩具を箱に片付けるかのように。


「やめだやめだ。それなりに見えたから相手をしてやったが、まったく話にならん」

「ワシに恐れをなしたか!」

「まともに剣すら抜けず、速いだけで力任せの雑な大振り。私について来られているのも、その並外れた身体能力のおかげに過ぎん。打てば聞こえてくるのは雑音だけだ……剣を交える意味など、もはやあるまい」


 剣聖はワシに背を向けると、ゆっくりと歩き出した。


「待て! ワシはまだ本気など出しておらんぞ!」

「言ったはずだ。お前と打ち合っても何も聞こえない(・・・・・・・)と」

「貴様もワシから逃げるのか!」

「……ならば、その獣臭さが消えてからまた来い。私はアレスだ」


 寂しさと諦めが混じったような声と共に、剣聖の姿はかき消える。

 突き放された空虚な静寂だけが、山の頂に取り残された。

 まるで初めから夢であったかのように。


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