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【1章完結】歴戦将軍の二度目の無双 〜神に未来へ追放され少年になっても問答無用で我が道を行く~  作者: うららぎ
1章 元将軍シド

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10話 再び巨鬼と戦う


 すっかり暗くなった辺りを、更に暗く覆うような『小さな山』が姿を現した。

 鋼鉄の如き筋肉と赤い皮膚に包まれた巨大な肉体、巨鬼(トロール)の変異種がそこにいた。


「またお前か」


 ワシは「気」を込めた威圧で巨鬼(トロール)の動きを封じようと試みたが、奴の動きに変化はない。

 一度目とは違ってまったく効き目がなさそうだ。

 こいつらは個体差でもあるんだろうか。雑魚とは違い一筋縄ではいかんようだな。


 先ほどの個体よりも、さらに肌の赤みが深く凶悪な気を放っている。

 レリアがワシを守ろうと前に立つが、その背中はわずかに震えているように見えた。


「わ、私がシド君を守ります! だから逃げてください!」

「ワシは大丈夫だ。レリアはそこから動くな」


 レリアに向かって振り下ろされた巨大な剛腕。

 ワシは黒剣を突き出し、その衝撃を真っ向から弾き飛ばした。

 骨の軋む感触が小さな腕に伝わるが、衝撃のすべてをいなしてのける。

 黒剣の硬度に負け、巨鬼(トロール)の手が大きく裂けて痛みで手を押さえながら咆哮した。


「魔法盾(シールド)か! さすがだな、ホルミ!」

「いいえ。私は何もしていません!」

「よく分からないが、とにかく助けるぞ! ジルガンは二人を任せた! ホルミは支援を頼む!」


 青年の鋭い号令とともに、息の合った三人の足音が地面を蹴った。

 ルードルがワシらの前へと割り込み、巨鬼(トロール)の足を切りつける。

 鍛えられた身のこなしで巨体の懐へ潜り込み、鋭い白刃が肉に食い込んだ。

 だが、浅く斬りつけた傷は瞬く間に再生していく。


「!? やっぱり、巨鬼(こいつ)は変異種だ! 硬すぎて骨まで届かないし、何より回復速度が異常だ!」

「ったく、どんな化けもんだよオイ! もう一体いたなんて聞いてねえぞ!」


 怒声と共に、重い鉄塊が地面を叩くような轟音が響く。

 文句を垂れながらも、ジルガンがワシらの前で大盾を構えた。


「おい、レリア、シド、二人とも聞け! ここは俺が引き受けるからさっさと逃げやがれ!」

「で、でもシド君が動くなって……」


 ジルガンの怒鳴り声に反応し、巨鬼(トロール)が手負いの腕でルードルを振り払う。

 大振りな一撃を、ルードルは軽々と回避した。

 次いで標的をジルガンに定めた巨鬼(トロール)が、同じように腕を振るってくる。


「クソがあ! 防げねえかもしんねえぞ!」


 ジルガンが衝撃に備えて足を踏ん張り、強烈な一撃をまともに受け止めた。

 鋼の盾と怪物の巨大な拳が衝突して凄まじい金属音が夜の森にこだまする。

 地面に膝まで脚がめり込むほどの威力を、力ずくで弾き飛ばしたのは見事だった。


 平凡な戦士なら盾ごと上半身を消し飛ばされていただろう。

 この時代の冒険者も、ただの腑抜けばかりではないらしい。

 だが巨鬼(トロール)は、弾かれた腕をさらに勢いをつけて振り抜こうとする。


「おいおい、二度は卑怯だろうが! このクソ野郎がよお!!」


 その直後、空気を断つ鋭い音が響き渡り、巨鬼(トロール)の巨大な腕が消えた。

 猛威を振るうはずだった剛腕が、宙を舞って森の奥へと飛んでいく。

 不意に重みを失った巨体は、盛大によろけながら腕の断面を押さえて悶絶した。


「どうなってやがる!? ルードルか? やるじゃねえかよ!」

「俺じゃない……が、チャンスだ! ホルミ、続けて頼む!」


 ルードルがジルガンの盾を踏み台にして、巨鬼(トロール)の懐へと跳んだ。そこへホルミの援護が重なる。


「いきますよ、ルードル! 浮遊(レビテーション)!」


 ホルミの短い詠唱と共に、ルードルの身体がふわりと重力を失った。

 魔法を受けたルードルが空中を蹴り、空を飛ぶかのように高く舞い上がる。

 眼前には巨鬼(トロール)の顔。だが、奴もただ黙ってはいなかった。


 その濁った赤い眼に明確な殺意の炎が灯り、傷口を押さえながらも空中のルードルを叩き落とそうと残った腕を振るう。


「させるかよ、デカブツがあ!!」


 ジルガンが叫びと共に大盾を投げつけ、巨鬼(トロール)の腕の勢いを強引に止めた。

 回転しながら飛んだ鉄の大盾が、残された巨腕の肘にまともに命中する。

 怪物の軌道がわずかにズレてルードルの頭上を虚しくかすめた。


「助かったよ、ジルガン!」

「これで魔法は打ち止めです。ルードル、任せます! 二重付与・大火炎《ダブルエンチャント・フレイム》!」


 ホルミが全ての魔力を絞り出すように、両手を空へと突き出した。

 まばゆい魔力の奔流が、一筋の光となってルードルの持つ刃へと吸い込まれる。

 その魔力によってルードルの剣に灼熱が宿り、炎が一気に吹き上がる。

 その豪炎は暗闇を切り裂く光となり、剣と共に振り下ろされた。


「任された! これで終わりだ!」


 気迫のこもった一撃が巨鬼(トロール)を正面から分断するように走り、狂ったような炎が巨体を包み込む。

 熱波が周辺を覆い、周囲の木々が一瞬で炭化していく。

 まさに大気を焼き尽くすほどの見事な一撃だったといえる。

 豪炎に焼かれた肉体が焦げ、ボロボロと崩れ落ちていく。


「やったじゃねえかよ!」


 ジルガンの歓喜の声が上がる。だが、着地したルードルの表情は暗い。

 とどめを刺した者の顔ではなかった。


「ちくしょう! 皮一枚しか斬った感触がなかった!」


 崩れ落ちていたのは、表面の皮膚だけだった。

 ボロボロと剥がれ落ちた炭の下から、新たな赤黒い皮膚がすでに顔をのぞかせている。

 炎が収まると、巨鬼(トロール)は嘲笑うかのように笑みを浮かべている。


 焼かれた皮膚もみるみるうちに再生し、完全に元通りへと復活していく。

 まるで『死ぬほどの威力ではなかった』と安心したかのように、巨大な魔物が笑う。


 三人の若き戦士たちが、絶望に顔を青ざめさせていくのが分かった。

 限界まで魔力を使い果たした彼らには、もうこれ以上の手立てはない。

 だが、ワシの戦闘準備はとうに整っていた。

 

「魔物ごときが、何を笑っている」


 ワシは巨鬼(トロール)を睨み据え、『殺気』をぶつける。

 奴の笑みが強張ると動きが硬直した。

 ワシは黒剣を振るうべく、静かに腰を落として構える。


 先ほど奴の手を撥ね飛ばしたのは、黒剣に『気』を纏わせた一撃だ。


 胴体の肉質は手とは比較にならんほど強固なのは分かっている。

 ならば……ワシが瞬時に練り上げた全霊の『気』を黒剣へと移しながら、音もなく踏み出した一歩。

 跳ぶような速さで移動する身体が静かにレリアの脇をすり抜け、一閃。


 直後、巨鬼(トロール)の動きが完全に止まった。


「動きが……止まった!?」

「おいおい、さっきから一体どうなってやがるんだ!?」

「もう魔法は使えませんよ……」


 ワシは振り抜いた黒剣を肩に担ぐように置き、静かに振り返った。


「シ、シド君? どうなって……」


 呆然とするレリアに向け、ワシはいたずら小僧のように笑って返してやる。


「だから言っただろう」


 ワシの背後で、巨大な巨鬼(トロール)に真っ直ぐな線が走る。

 左右に裂かれた肉体は、凄まじい音を立てて大地へと倒れ伏した。


「ワシが倒した、とな」


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