2-11
「この世界は、お前らとは違うがお前らに似ているもの。いうなれば、新人類たるあたしらが意味と価値の力によって作り上げたものだ!」
「はぁ」
緊張していた分、いきなり突拍子もないことを言われると、対応に困ってしまう。
「なんだよ、思ったより反応薄いじゃねえか。いいけどさ。
さておき、今のこの地球上を支配しているのは、あたしらが作り上げた法則だ。その昔、あたしらとは違う人間がまだ地上を支配していた頃。その頃は、世界中に人間が居て、地球上あますところなく、人間が持つ意味と価値の力によって支配していた。その力は、どこに居ても見ることが出来た。ということは、お前らはその特別な力を、意識的にしろ無意識的にしろ、人間以外の存在に見せつけていたわけだ。そして、そんな環境の中では、当然、人間のその力にあこがれるものが出てくる、それも、動物や植物を問わず」
「動物や植物が、人間にあこがれる? そんな……」
「そんなことはバカな? そんなことがある訳がない? 言いたいことは分かる。だがな、今は黙ってあたしの話を聞いとけ。いいか、ここから先が重要なんだ。実際にこの目で自身の変化を、世界の変化を見たあたしが言うんだから、間違いない。あたしは知っている。人間が地球上からほぼ姿を消す少し前から、今までの歴史を。だが、それを常識に落とし込んで、つまりは怪しげな神学だか哲学だかわからんような要素を極力排して説明することは、死ぬほど難しい。だから、黙って聞け!」
真広の言葉を遮ったメイが一息にここまでまくしたてる。今の言葉でさらに疑問が降り積もっていくが。何かを訴えるように真っ直ぐと真広の目をのぞき込んでくるメイの視線に射すくめられて、真広はこれ以上は何も言わずに、ただ頷く。本当のところは言いたいことはたくさんあったが、それを全てのみ込ませてしまうほどに、今のメイは真剣そのものだった。
「ゴホン。さてと。このまま歴史のお勉強に突入してもいいんだが、その前にあと二つ、お前らに説明しなければならないことがある。意味と価値の持つ側面その二の逸脱不可能性と、集合的無意識だ。
順番的に、逸脱不可能性からいくか。つっても、これは簡単だ。物事の意味やら価値に当然のようにひっついてくるおまけみたいなものだからな。そうだな……やっぱり、この煙管で良いか……」
何かないかと視線を彷徨わせるメイだが、結局何も見つけられず、代わりに煙管にタバコの葉を詰めて火をつけ、うまそうに一口吸い込む。
「今あたしはこれをタバコを飲む為に使っている」
活火山のように煙を吐き出しながらしゃべるメイの迫力に押されて、真広はつい半歩ほど後ろにさがってしまう。
「でもどうだ? 明日の朝、お前らが布団から出てあたしと朝飯を食うとする。その時に、あたしがこいつを二本手に持って、『おう今日からこれは箸になったから、よろしくな』なんて言ったらおかしいだろ? 他にも例えば、あたしの隣に座っているリーシャ。さっきから話に巻き込まれまいと必死に陰を薄くしているが、いきなりどこぞから煙管を取り出してきて背中に突っ込んで、『ああ、すまない。ずっと同じ姿勢でいたせいか、背中がかゆくなってきてしまってな』なんて言い始めたらおかしいだろう?」
煙管を孫の手代わりに背中を掻くリーシャを想像して、メイとリーシャ以外の四人がフッという薄い笑いを同時に漏らす。
「笑ってるってことは、ぼんやりとでも理解出来たってことでいいのか?
あたしが何を言わんとしているかってぇとだな。一度定義されたものは、そこからずれてもらっちゃ困るってことだ。朝令暮改じゃねえけど、意味がコロコロ変わってもらっても困るし、例外が存在してもらっても困るってことだ。そうじゃなきゃ、定義する意味がないだろ?」
至極もっともなメイの言葉に対して、真広たちは素直に頷く。
「これについちゃ今はこれでいい。なんでこんなものが必要かだけ理解してくれれば十分だ。説明した理由は、そのうちわかる」
一息つくために、メイが煙管に口をつけて軽く吸い込む。




