2-8
「ん?」
そこまで考えてふっと現実に戻った真広は、いつの間にか自分の膳の上のものがなくなっていることに気が付いた。どうやら、無意識のうちに全て食べてしまったのだろう。正直に言って、少し物足りなかった真広は、なんとなく回りを見てみる。
あわよくばお代わりをもらえないだろうかと、少し意地汚いことを考えながら視線をメイとリーシャの方に向けると、何やら腕を組んで考え事をしていたメイと偶然にも視線が交差してしまう。朝の出来事があったせいか、反射的に視線を外そうとするが、それよりも早くメイが口を開いたせいで、その機会を失してしまう。
「おい、真広」
「はい」
考え事をしているせいで幾分低い声になっているメイに、おっかなびっくり返事をする。
「お前は、人間の本質は何だと思う?」
「はい?」
つい二回続けて同じ言葉を返してしまう。メイが低い声でボソボソしゃべるせいで聞き取りにくかった、と言うのもあるが、なによりも言葉の内容が信じられなかったせいだ。正直なところ、からかわれているのかとすら思ったが、どうやら違うみたいだ。目の前のメイの表情は真剣そのものと言った感じで、事実ものすごく真剣らしく、メイの言葉を聞いた瞬間にプッと噴き出したイリックの額に向かって、箱善の横に置かれていた煙管が一振りされる。
「あっづい!」
煙管の中にはいつの間にかタバコが詰め込まれていたようで、真っ赤に燃えている小さな塊がイリックの額を直撃する。額を抑えてゴロゴロ転げまわるイリックに向かって、メイが怒鳴る。
「人がどう説明したものかと必死になって考えてやってんのに笑うんじゃねえよ! ったく。こちとらここにいるバカ娘が余計なことしてくれただけでも手一杯で、人間なんぞの相手なんかしてらんねえってのによ」メイは空になった煙管でリーシャを指し示す。「それでも、ここの不出来な半端者から事情を聴いてみれば、ほとんど何も聞かされずにここまで来たって言うから、しぶしぶ、仕方なく、お前らが希うから、説明してやろうってのに、それを笑うんじゃない! そもそも食事に誘われた時点でそのぐらい察しろ!」
そんな無茶苦茶な。
身振りを交えつつ一気にまくしたてるメイを見てそう思うが、口に出すことはできなかった。かねてからの疑問や突然叩き込まれて不可思議極まりない世界に加えて、目の前で自分はこの村の村長であると名乗って暴れまわる傍若無人少女が目の前に居るのだ。ここは黙って相手の話を聞いて情報収集に努めるのが得策だろう。何よりも、相手は今、説明してくれると言ったのだ。
「まあいいや。とにかく、この事態にはあたしにも少なからぬ責任がある。ここのリーシャから話を聞いた限りじゃあ、ちょっとした理由から何も説明されずにここに連れてこられたそうだな。だから、それらを全部説明する為に朝飯に誘ってやったんだよ。だからとにかく、黙って聞け! あたしの見た目のこととか、あたしらがお前らに対して取る微妙な態度の理由とか、全部説明してやるから、とにかく、おとなしく聞け。というか、答えろ!」
最初こそ、怒鳴ったことを取り繕うように元の口調に戻って放していたメイだが、次第に態度と声がでかくなっていき、最終的には再び横暴そのものの口調に戻ってしまう。真広たちは勿論のこと、リーシャまでその場で小さくなっている。
「それで、なんだっけ。ああ、人間の本質だ。真広、なんだと思う?」
いきなりそんなことを聞かれても、わかる訳がない。
「えと、言葉を話すこと、とか?」
言葉を自由に操れるのは人間だけ。かなり昔にそのような内容の話をどこかで聞いたような気がする。
「なるほど。他は?」
答えないとまた何かやられるのではないかと思って必死に絞り出した答えだったが、メイはそれ特に言及することなく、視線を他の人に向ける。ほんの少しだけむっとしてしまうが、ここで話の腰を折っても仕方がない。
ところが、ほかの面々はメイと視線が合った瞬間に逸らしてしまい、話が進まない。普段はあまり息が合っているとは言えないのに、こういう時だけ呼吸をぴったり合わせているクシャナ達に対してため息が零れそうになる。
「その、高度な文明を作り上げえること、でしょうか」
と思っていたら、このまま黙り通しているのも悪いと思ったのか、伊織が言う。ああ、俺の味方はお前だけだよ、と心の中で軽くエールを送る真広だが、メイの方はどちらの答えも満足いかなかったようで、何やら次の一手を打とうとしているようだった。




