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「あの、皆さま、ここです」
意識が思考の世界に迷い込んでしまっている間に目的地の着いたらしく、リーシャの歩みが止まる。そして、言葉と共に指さされた場所を見た真広は、そこがどこであるのかすぐに気づき、つい、驚きの声をあげてしまう。
村に来たばかりの真広ですらすぐに気づいた場所。それは、村の中心にある広場のそのまた中心に立っている大きな建物だった。どの文化様式のものともわからないその家は、朝霧の中で見た時よりもずっと巨大に感じられた。
実際にかなり巨大な建物であることは確かなのだが、建物の随所に施された装飾が建物の存在感を倍増させ、現実よりもさらに巨大に見せている。また、朝方村の全景を見た時には気づかなかったが、建物の裏側の半分ほどは、巨大な欅の木が伸ばす緑色の枝に覆われていた。
「あの、あまり遅れると、また文句を言われてしまいますので」
皆そろって建物を見上げてポカンと口を開けている真広、伊織、クシャナ、イリックの四人をリーシャが促す。その言葉で先ほどのメイの言動が頭の中によみがえって来た真広たちは、大慌てで玄関の戸を開けて建物の中に入る。
建物の中は割合と素朴な作りになっていて、入り口をくぐって中に入ると広い玄関と下駄箱が目につき、板張りの長い廊下が続いている。
真広たちが玄関で靴を抜いていると、最後に入って来たリーシャが玄関の扉を閉め、右手だけを使って器用に靴を脱ぐいで揃えると、いち早く廊下に上がって真広たちの準備が終わるのを待っている。
真広たち全員が玄関に上がったのを見届けると、
「こちらです」
と言ってリーシャは廊下の奥を指さした後、先に立って廊下を進んでいく。廊下は、木でできた壁に左右対称かつ等間隔に様々な形のドアが並んでいて窓が全くなかった。しかし、採光のことまできちんと計算されているらしく、不思議と暗くはない。
やがて、リーシャは長い廊下の一番奥の真広たちから見て右側壁にある襖の前で歩みを止める。襖の反対側には階段があり、この建物が二階建てであるらしいことが分かる。どうりで、外から、見た時に異常なまでに大きく見えたわけだ。
「お連れしました」
廊下に膝を付いたリーシャは、ノックする代わりにそう声をかけた。
「おう、入れ」
中から、メイの声が返ってくる。
「失礼します」
リーシャが襖をそっと手で引いて開けるが、本人はすぐに中に入らず、先に入るようにと視線と身振りで促す。しかし、すぐに見知らぬ部屋の中に入るのも気が引けた真広たちは、入り口から顔だけを出して部屋の中をうかがう。
部屋の中は、畳敷きだった。襖が設えられていたことから何となくそんな気がしていたので、それについては珍しくはあったが、驚きはなかった。それ以上に真広たちの目を捉えて放さなかったのは、その部屋の広さだ。畳数十枚分にも及ぶ広大な空間中には見たことのない箱のような物が六つ、コの字型に並べられている。真広達が今いる入口の側に向かってコの開かれた部分が向けられ、メイは真広たちから見て左上の角の部分、それもこちらに向けておいてある箱の前で、胡坐をかいて座っていた。メイの後ろには、黒一色で見事な虎を書き上げた絵が飾ってあったが、迫力満点のその絵が、なんとなくメイの本性を現しているようで、部屋の中に余計に入りにくくなってしまう。
真広たちが入口のところで戸惑っていると、早く中に入って座れと言うように、メイが手招きする。それに逆らうと、文字通りに取って食われてしまうような気がした真広は、恐る恐る部屋の中に足を踏み入れる。ふんわりとした新しい畳の感触を味わうような余裕もなく、真広は箱が並べられているあたりまで歩いていく。あの箱が何かはわからないが、箱の前に座布団がおいてあるからにはテーブルの代わりなのだろうと当たりを付けた真広は、手招きされるままにメイから見て右斜め前にある箱のところに腰を下ろす。
すぐ近くに居るメイが、例の胡散臭い笑顔を向けて来る。それだけでも嫌な気分になってくる真広だが、メイのすぐ脇に、先ほどまでメイが履いていた鉄下駄が置かれているのを見て、さらに嫌な気分になる。メイの下駄は、表面に真広の顔が映り込むほどに使い込まれていて、もしもそれが投げつけられでもしたら、痛いでは済まないだろうことを容易に想像させる。
今更ながらにメイから遠いところの席に着けばよかったと思うが、思った時には後の祭りだ。既に真広の横にクシャナ、正面に伊織、その横にイリックが座っていて、残っているのはメイの真横の席だけだが、そこに座るのだけは、遠慮しておきたい。
諦めの身持ちを抱いた真広がため息を吐きながら背後を振り返ると、そこには大きなガラス窓がはめられていて、そこからは綺麗に整備された庭と、建物に入る前に見た欅の木のごつごつとした太い幹が見えた。本当に建物の最奥、真広たちが入って来た玄関とは正反対にある部屋のようだ。
表現の矛盾のようなものを見つけたので修正。




