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「でね、朝起きて伊織ちゃんと一緒に身支度を整えてたらリーシャちゃんが来て、真広のところまで連れてってくれたんだよ」
リーシャに案内されながら街の中を進む真広たち。今朝起きてからの出来事についてお互いに情報を交換し合うが、誰一人として相手の顔を見ていない。
初めこそ、メイの正体とか、朝起こったことは何だったのかと、真面目にリーシャを問い詰めていた真広たちだが、当のリーシャが、「はあ」とか「まあ」とか「そのことは後程」というばかりだったので、次第に質問する気がなくなり、集中がそがれたせいで徐々に目が周囲に向くようになり、最後には魔周囲の景色に完全に目を奪われて。その結果として、お互いの顔を全見ずに会話をするという奇妙な状況が発生していた。
「俺も、寝ていたら家の外からリーシャの声が聞こえてな。それで、お前のところに連れていくからって」
初めて見る外の世界、それも、公式には大昔に滅んでしまったことになっている場所だ。それだけでも興味を引くこと受けないなのに、ましてやここは真広たちが慣れ親しんでいるのとは全く違う文化が支配する場所なのだ。とりあえずは会話を続けているが、真広たち一行の視線が点でバラバラの方向に注がれ、何か珍しいものを見つけるたびに歓声が上がる。冷静になってみてみれば、世界各地の中世期に当たる文化がごった煮状態になっているのが分かってくるのだが、本の挿絵でしか見たことが無いような物を実際に目にしているだけでも興奮するし、何より、真広たちの常識とは明らかに違う現象が起こっているのだ。
例えば、家の玄関口にコップを持って立っている男性が空中に向かって焼き菓子のようなものを差し出して何かをお願いするようなポーズをとると、手の中のコップにはあっという間に水が満ちていく。そして、その代わりに、男性の手からは菓子が消えているのだ。
またある中年女性は、
「これを村の反対側に居る、そう、いつものあの人に、お願いね」
と言って手紙を空中に差し出している。そんなことそしてどうするのかと思ってみていると、手紙は見えない鳥に運ばれているかのように空中に浮き、あっという間にどこかに飛んで行ってしまう。どう考えても、ただ風に飛ばされたのではなく、きちんとした目的に沿って飛ばされている。
そのほかにも不思議な現象をあげたらきりがない。真広の視線も、五秒以上一か所にとどまっているということはなく、常に新しい驚きとともに動き回っている。街の中で展開する光景は、どれもこれも、ゲームの中でしか見たことがないような、いや、ゲームの中ですら見たことが無いようなものばかりだ。今目にしている光景は、あまりにも突拍子もないようなことばかりだ。小説やゲームだったら、体系的な根拠が無いと言って、ダメ出しをくらってしまいそうだ。
そんな景色の中に、比較的見慣れた朝の光景――忙しく歩き回る人や、朝の散歩をしている人、太陽に体を向けて家の前で体操をして人、店を開ける準備をしている人など――がまぎれているせいで、朝の準備に追われる人々の喧騒すらも、珍しく思えてくる。いや、事実、これほどの喧騒は真広たちにとっては珍しいものだった。
村はとにかく活気に満ち満ちていて、見ているだけで真広も元気が出てくるような気がした。人々が発するここまでの息遣いは、真広たちが居た街の中にはなかった。あの街は働く必要が無い、むしろ働くことが禁止されていたせいで、朝の街は死んだように静かだった。朝の時間を楽しんで居る人は、少数派だった。ほとんどの人は朝は遅めに起き出して、それからめいめいの時間を過ごすのだ。自らの配給ポイントを使って『労働』という趣味を楽しんでいた人たちは朝早めに起きてその為の準備をしていたが、あくまで遊びの一環としてそれを行っていたせいで、その多くは、眠そうかつ面倒くさそうに朝の準備をしているのが常だった。遊びの準備や片付けまで楽しめる人は、そうはいない。
だから、人々の息遣いの中を歩いているだけで、なんとなく体が疼いてくる。真広は、このままあの喧騒の中に飛び込んでみたい衝動に駆られてくる。




