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「試験は合格した。これでお前らは正式にあたしらの客だ。リーシャから全てを聞いたから事情は知っている。お前たちには聞きたいことがあるということもな。それに、あたしはお前らの子孫でもあり祖先でもある。せっかく訪ねて来てくれた祖先兼子孫をもてなしてやるのは礼儀と言うものだろう」
そこでまたメイは煙管を咥え、大量の煙を吐き出す。正直に言って、真広にはメイが何を言っているのか全く分からなかったが、今聞き返せば間違いなく火のついたタバコが飛んでくるだろう。気を付けの姿勢から動くに動けないでいる真広たちの前では、メイが煙管ひっくり返して軽く振っている。どうやら煙管の中身はたったの二息で全て煙になってしまったらしく、煙管の中身からは灰が落ちてくるだけだ。
「あの、メイお姉ちゃん?」
そのタイミングを狙ったように、先ほどまで真広にむらがっていた子どもたちがメイに声をかける。どうやら、この子たちはメイの扱いに相当慣れているらしい。
「なんだ?」
新なタバコを吹かしながらメイが応じる。
「えと、僕たち、言われた通りにここに居たけど。もう、帰ってもいい?」
「あー、ゴメンな。すっかり忘れてた」
途端にメイが笑顔になる。表情の変化が劇的過ぎて、ついていけない。
「もう大丈夫だから。家に帰っていいぞ。朝ごはんの前に悪かったな」
顔の前に真っ直ぐ伸ばした右手を持ってきて、舌を出して見せるメイ。これが本当に、火のついたタバコや、唾を飛ばしていたのと同一人物かと疑いたくなる。
「よかった」
「やっと終わったの?」
「お腹減ったー」
「でも、あのお兄ちゃんたち、誰?」
メイの言葉を聞いた途端に、子どもたちは一斉に広場の外に向かって駆け出す。口々に乾燥を述べながら嵐のように去っていく子どもたち。今のメイの口ぶりからして、どうもメイによってこの場所に集められていたらしい。だが、一体なんのために?
「さて、とにかく、お前らはあたしらの客だ」
子どもたちの背中に向かって笑顔で手を振っていたメイの顔が、彼、彼女らが居なくなった途端に元の邪悪なものに戻る。弛緩しかけていた全身に再び力が入る真広たち。邪悪な顔をしたメイの横では、リーシャがおろおろしている。
「朝飯ぐらい食わせてやるから、ひとまずついてきな」
言い終わらないうちに、メイは親指でぞんざいに背中の向こうをさす。確か、あの方向は、村の中心だっただろうか。
「ほら、早くしろ」
記憶を頼りにそんなことを考えている間に、メイは真広たちに背中を向けて歩き出してしまう。
「えー、と?」
「どうしましょうか?」
「ついていくしかないんじゃない? わたしたち、この場所のこと何も知らないんだから」
「あー……うん、そうだな」
メイの背中を眺めながら、イリック、伊織、クシャナ、真広の順に口を開く。
「あの、メイ婆さん。もう少し穏便に。私を連れてきてもらった件もあるのですから」
リーシャはどちらの味方をすればいいのか迷っているらしく、ひとまずメイをとりなそうとする。が、メイにとってこれは逆効果だったらしい。
「うるさい、阿呆!」
メイが投げた何かが、リーシャの額のど真ん中に命中する。パコンという澄んだ音が、立ち尽くしている真広たちの間に虚しく響く。
「だ、い、た、い! こうなったのはお前のせいだろうが、このウルトラ阿呆!」
その衝撃で、リーシャ地面に背中から倒れるが、メイはそんなことには露ほども感心を示さず、鼻を鳴らすと、鉄下駄の音を響かせて歩き去ってしまう。
倒れたリーシャの横では小さな木の欠片が土の上でくるくる回転している。メイが投げたのは、先ほどまで下駄の歯に被せていた木片だったらしい。街の中では『敵をバッタバッタと倒していく経歴不明の謎の多い少女』だったリーシャも、この村の中でメイの手にかかっては形無しのようだ。
「大丈夫か?」
地面に倒れたリーシャに手を貸すと、
「いててて……」
リーシャは真広の手をしっかりとつかんで身を起こす。
「いや、すまない。普段は、もう少しだけ礼儀正しい人なんだ」
少しだけなのか。
とは言えないので、代わりに、起き上がったリーシャに、
「それで、俺たちはどうすればいいんだ?」
と聞いてみる。
「あの、恐縮なのですが、とりあえず一緒に来てください。皆さまの朝食を用意してありますし、お互いに話した方がいいことも多いと思うのです」
完全に板挟み状態のリーシャは、真広たちを拝むようにして言う。特に拒否する理由もなく、何よりもリーシャが少し哀れになって来た真広たちは、示し合わせたように頷く。
「ああ、ありがとうございます。それでは、こちらです」
メイの数百倍丁寧なリーシャの案内に従って、真広たちは広場を後にする。




