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2-3

 メイに連れていかれたのは、村の中にある広場だった。村の中心にある巨大なものとは違い、ただの空き地と言った方がより的確な場所だ。

「はい、とうちゃく!」

 飛び込むように広場に駆け込んだところで、メイは万歳するみたいに両手を掲げて決めポーズを取るが、真広の方にはそんな余裕はなかった。何しろ、スタートしてからここに着くまでの約五分間、真広の全力疾走に近いペースで走り続けてきたのだ。しかも、道といいつつも地面は踏み固められた土で、走りにくさを倍増させていた。ポーズを決めるどころか、肺が痛くて声を出す気にもならない。リーシャといいメイといい、この村に住んでいると身体能力が上がるのだろうか。おかげで、ここに来るまでの街並みを見るどころの話しではなかった。

「あーメイちゃんだ!」

 膝に手をついて息を整えている真広の頭部に、子ども特有の高い声が降ってくる。まさか目的地に他の人が居るとは思っていなかった真広は、驚いて顔を上げる。すると、五人の子どもが、遊びの手を止めてこちらに駆け寄ってくるところだった。メイ子どもたちの突進をなれた様子で受け止めると、じゃれ付いてくる子どもたちと楽しそうに話し始める。

 子どもたちの年齢は、メイよりも低く、全員が十歳になるかならないかと言ったところだろうか。人数は女の子が三人と男の子が二人で、女の子の方が多い。見せたいもの、というのは、まさか彼彼女たちのことだったのだろうか。

「このお兄ちゃん、だれ?」

 メイとじゃれていた子どもたちが、さっそく真広に気づく。見慣れない恰好をした年上のよそ者である真広を前にして最初に疑問を発したのは、メイの背中に半ば隠れるようになってしまっている女の子だった。その声を皮切りにして、子どもたちが一斉に真広の存在に気づき、女の子はメイの背中に隠れ、男の子はこちらに向かってファイティングポーズを取る。

「ああ、大丈夫だよ。このお兄ちゃんは悪い人じゃないから」

 その様子を見たメイが笑顔でフォローしてくれるが、子どもたちの警戒はとけない。真広自身も、自分が子どもの側だったら当然そういう反応をするだろうとは思うが、これだけ警戒されると少し悲しくなってきてしまう。

「このお兄ちゃんは、すごいんだよ。なにしろ、ホワイト・ゾーンから来たんだからね!」

 しかし、メイのこの一言で、状況は一変する。

「ホワイト・ゾーン?」

「ほら、あれだよ、死神の居るところだっていう場所」

「絶対に近づいちゃいけないんでしょ?」

「あれが来るのも、そこからなんだけっけ?」

 一斉に頭を寄せ合うと、真広のことを横眼で伺いながら、内緒話を初めてしまう。真広は顔に愛想笑いを浮かべて立っている以外に何もできない。

 内緒話をおえた子どもたちがお伺いを立てるようにメイの顔を見る。

「ほら、大丈夫だから行ってごらん?」

「「「「「わー!」」」」」

 メイの言葉を合図に、子どもたちが一斉に真広に向かて駆けてくる。驚いた真広は咄嗟に腕を広げて受け止めが、子どもといえど五人も集まると結構重い。転びそうになって後ろに数歩よろけてしまうが、どうにか踏みとどまる。

「お兄ちゃん、名前は?」

「真広だよ」

「本当にホワイト・ゾーンから来たの?」

「もちろん」

「フウミュが見えないって本当?」

「あー、残念だけど本当だよ」

「それでどうやって生活してるの?」

「どうって、言われても……」

「知ってるよ! なんか、水も空気も食べ物も、全部機械で作ってるんだよね?」

「いや、それは流石に……」

 突然の質問攻めに困り果てた真広が、助けを求めるように視線を向ける。しかし、視線の先に居るメイは、先ほどまでの笑顔が嘘だったみたいに、値踏みするような鋭い目つきで真広のことを見ていた。

「あっはは。お兄ちゃん大人気だね」

 だがそれも一瞬だけのことであり、すぐに元の笑顔に戻る。一周だけ見えた表情は勘違か何かだったのだろうと思って真広は視線を子どもたちにもどす。

「ねえ、お兄ちゃん本当にフウミュが見えないの?」

 オウムと止まらせているみたいに水平にした腕を真広に見せたのは、最初に真広に気づいた女の子だった。

「あ、アクアだ」

 子どもたちが口々にそんなことを言うが、見えないものは見えない。

「いやー……」

 どう答えたものかと思っているうちに、次の質問が降ってくる。どうやら、彼彼女らの専らの関心は、真広がフウミュを見ることが出来ないこと、についてらしい。

「じゃあ、これは、ウィンディーネは?」

 別の子に腕を差し出されるが、腕以外のものは見えない。

「えー、じゃあさ、あそこでメイちゃんが使ってるウィンディーネも見えないの?」

 そういう男の子の指さすほうを見ると、草原でリーシャがやっていたみたいに、鳥を飛ばすような動作をしていたメイが、大慌てで人差し指を口の前にもっていって、「しー!」という動作をする。メイが何をやっているのか確かめようと思うが、子どもたちの質問は止むことが無く、真広にそれをさせない。

「フラウは?」

「えー、と?」

「えっとね、そういえば、今って何の月?」

「何の月? ああ、何月かってことか。それなら、五月だけど?」

「五月! やっぱり違う! 今は新芽の月だよ!」

「新芽?」

 と、こんな感じのやり取りを続けて、どれほど経っただろうか。

「まっひろぉ!」

 唐突に、広場にクシャナの声が響いた。

 その声に驚いた真広が子どもたちに向けていた視線を上げると、こちらに向かって駆けてくるクシャナの姿が映った。

「え、ちょ!」

 驚きに目を見開く真広のことなど一切かまわずに、クシャナが一直線に飛び込んでくる。真広の直前で勢いよくジャンプしたクシャナを、真広は両腕を広げてどうにか受け止める。

「んふー!」

 クシャナはクシャナで、真広の腰を足でがっちりとホールドし、真広の顔を抱え込んで自分の胸に思い切りこすりつける。クシャナは胸が薄いのでで肋骨がゴリゴリして鼻が痛かったが、それは言わない方がいいだろう。

「それで、なんでここに居るんだ?」

 やっとのことでクシャナを地面におろした真広が、顔を手でさすりながら言う。メイに出会った時には隣の家から人の気配はしなかったし、宿代わりの家からここまで五分は走ったのだ。このタイミングで村に不慣れなクシャナがここに居るのは、かなり不思議だった。まさか、村の人々に何かされたのだろうか。

「あー、それはね、ほら」

 真広の疑問を察してくれたらしく、クシャナが広場の入り口を指さす。するとそこには、見慣れないがスッキリとした衣服に身を包み、手には何やら赤く細長い布包みを持ち、腰に剣を佩いたリーシャが立っていた。それだけではない。その横には、不機嫌な顔をしたイリックと、不安そうな顔をした伊織が立っている。

「ああ、なるほど」

 つまり、リーシャにここまで案内してもらったのだ。だが、それならそれで、どうしてこの場所が分かったのだろうか。

 真広とクシャナの視線が向けられたのを合図に、クシャナたちがこちらに歩み寄ってくる。絶対に何かあると思った真広が今度はメイに目を向けると、ものすごく可愛らしい満面の笑みを返してくる。とても胡散臭い笑顔なのだが、それがどうでもよくなるほどに可愛い。

「村長、言われた通りに連れてきました。それから、これを」

 しかしそれも、リーシャがメイの前に傅いて恭しく包みを差し出すと、メイは下駄の歯から何かを取り外し、それを着物の袖にしまうと、包みを手に取って撒かれていた紐をほどき、中から煙管とを取り出し、タバコを詰めて火をつけ、思い切り吸い込み、メイの顔が隠れるほど大量の紫煙を吐き出すまでのことだった。

 笑顔の少女がタバコを吹かす様にあっけにとられていると、紫煙の向こうから今までとは打って変わって棘をたっぷり含んだ声が聞こえた。

「あー、まあ、とりあえずは合格ってとこかね」

 ついで、ガランゴロンという、明らかに鉄が奏でる音が聞こえる。どうやら、鉄下駄の歯に木片を被せて、そうとわからないようにしていたらしい。

「兄様……」

 恐怖すら感じさせるその光景に、伊織が真広の腕に縋りついてくるが、真広も真広で頭が働いていないため、伊織をなだめてやることすらできない。いくらなんでも、先ほどと雰囲気が違いすぎる。紫煙の向こうから現れたメイの顔は、先ほどまでの『可愛い子ども』のものではなく、『二、三人殺した犯罪者』のものだった。笑顔など欠片もなく、鋭い眼光で真広のことを射抜いてくる。

「えと、メイちゃん?」

「なんだよ?」

「……」

 おかげで、言葉の先が続かない。

「早く言えよ」

「あー……子どもがタバコ吸っちゃ、ダメだよ?」

 メイに睨まれて慌てて取り繕おうとするが、これでは全然取り繕えていない。

「大きなお世話だ、ションベンガキ」

 鋭い眼光にプラスして眉間に皺を入れたメイが、持っていた煙管を口から放して一閃させる。途端に、真広のおでこに灼熱の塊が飛んでくる。

「あちゃ! あっづぅ!」

 どうやら煙管の中に詰まっていた火種を飛ばされたらしく、慌てておでこのあたりを払うと、小さい塊が手に当たった後地面に落ちて言った。

「あち!」

 今度は火種が当たった手をぶんぶんと振る真広の前では、メイが何事もなかったように煙管に新しいタバコを詰めている。

「シケモクババァ……」

 真広から半歩ほど下がった位置でことの成り行きを見守っていたイリックが、つい、という感じで口を開く。開いた後でとんでもない失言だと気づいたのか、慌てて手で口を覆うが、もう遅い。

「ペッ!」

 煙管を咥える寸前だったメイが口をすぼめて、唾を吐き出す。吐き出された唾は、それはそれは見事な放物線を描いて飛んでいくと、レールでも敷いてあるみたいに綺麗にイリックの右目に滑り込んでいく。

「目ぇぇぇ! 痛い! タバコの成分がしみる!」

「ふん!」

 それを見届けたメイは小さく鼻を鳴らすと、煙管を咥えて先ほどと同じぐらい大量の煙を吐き出す。

「いいから黙って聞け、ガキども」

 身長的には真広たちの方がメイよりも高いはずなのに、今のメイと接しているとなぜだか見下ろされている気分になってくる。

「「「「はい」」」」

 これ以上メイに逆らうと命に関わるのではないかと判断した真広たち大人しくその場で気を付けの姿勢を取る。返事もいつもの三割増しぐらいで声を張る。

 後に作中で描写がある(予定)ですが、先に言っておきます。

 

 メイは合法ロリ(大人)なので、タバコを吸おうが、酒を飲もうが問題ありません。 

 

 一章で名前が一回だけ出て来た「メイ婆さん」その人であるので、合法なのです。元々はれっきとした老婆だったのですが、「老婆なんぞ誰も見たくないだろう」と言うことで、性格はほぼそのまま(見た目を子どもにしたのに合わせて若干『クソババア成分』を増量)にロリ化したので、たいていのことは合法なのです。

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