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驚いた真広が後ろを向くと、そこにはちょうど真広が使っている家の陰から出て来たばかり、という風の女の子が、左手を腰に当てて上半をわずかに前傾させ、真っ直ぐに伸ばした右腕と突き出した右手の人差し指を『ズビシッ』というオノマトペが空中に見えそうな勢いでこちらに向かって突き出して立っていた。
年齢は、十二か十三歳だろうか。赤い布時に色々な模様が染め抜かれた色鮮やかな着物を着ているが、着物の足の部分はから十㎝ほど上のところで途切れ、しなやかで活発そうな女の子の足が露わになっている。きっと、着物とミニスカートを組み合わせたらこういう感じになるのだろ。なんとなく、真広はそう思った。
また、女の子の顔は活発そのものという感じで、赤く張りのある唇やブラウンの瞳と、朝の冷気に冷やされて白くなった頬とのコントラストがまた一段と可愛らしい。髪は、肩に少し届かないほどの長さの艶やかなストレートの黒髪を頭の両脇で結んでツインテールにしている。今までどこかを走り回ってでもいたのか、その髪がところどころ乱れているのも、女の子の生き生きとした可愛さに拍車をかけている。
「君は……」
だが、この非現実的なほどの可愛さを放つ女の子を前にした真広が感じたのは、既視感だった。こんなファンタジックな女の子を見たのは勿論初めてなのだが、どうしても、目の前の女の子をどこかで見たような気がするのだ。
真広が女の子のことをしげしげと眺めていると、女の子は黒漆で仕上げられ、赤い鼻緒がはめられた下駄をカランコロンと鳴らしながら近づいてくる。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
近づいて来た女の子が不審げな顔でそう言ったところで、真広は慌てて女の子から視線を外す。しまった、と思って取り繕おうとするが、女の子はそれ以上気にする様子はなく、さっさと話題を変えてしまう。
「あ、あたし、メイって言うんだけど、お兄ちゃんは?」
この名前も、どこかで聞いただろうか?
「ああ、俺は、霊螺子真広だ。よろしくね。メイちゃん」
そう言って手を差し出すと、メイというらしい女の子は素直に握り返してくる。
「ところで……」
と思ったが、あまり素直でもなかったらしい。メイは、真広の手をぎゅっと握ったまま、こんなことを聞いてきた。
「お兄ちゃんて、ホワイト・ゾーンから来たって、本当?」
ホワイト・ゾーン……たしか、リーシャが使っていた真広たちの街を指す名前だったか。
「ああ、そうだよ」
別段、隠すこともない。そう思って気軽に肯定する真広だが、メイは真広が思った以上の真剣さで、まるで品定めでもするかのような目つきで真広のことをじっと見つめてくる。
「うん、やっぱりそうなんだ」
かと思えば、急に笑顔になって、
「じゃあさ、お兄ちゃん、ちょっとこっちに来てよ。見せたいものがあるんだ」
真広の手をグイグイと引っ張る。
「え、ちょ!?」
メイの手の予想外の力強さに、真広はついつい二、三歩ほど足を踏み出してしまう。それを肯定と受け取ったのか、メイはさらに手に力を籠める。このままこの女の子に従ってもいいのだろうかとチラリと考える真広だが、相手が自分よりも年下であるということと、心の中ではちょうど街の様子を見てみたいと思っていたことが重なって、結局は、メイに引きずられるままに走り出してしまう。




