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2-1

 純和風、と言うのだろうか。入口からは土間が続き、そこに炊事用のかまどと大きな水がめが設置され、一段高くなった板の間には、囲炉裏が作りつけられている。

暖かい汁を胃に流し込むと体が内側から暖かくなり、寝る前に用意しておいた薪を囲炉裏に放り込んで火勢を強めると、炎独特の暖かさが伝わって、体の外も、なんとも言えない心地よさと一緒に暖かくなってくる。朝の空気と板の間は冷たいが、腹を火に向けて囲炉裏のそばで横になっていると、幸せな気分になってくる。できれば、ずっとこうして居たい。筋肉痛と心地よさのせいで、指一本動かすことすら面倒に感じられる。

 真広が進むと言った後、そのままリーシャの村まで来てしまったが、どうするべきだろうか。そもそも、到着したのが夜遅かったから、村の様子や規模すらわからない。到着と同時に目を覚ましたリーシャに「大丈夫ですから、彼女らに従ってください」と言われるままに今いる建物まで案内されると、体力的な限界をとっくに超えていたせいで、用意されていた食事もそこそこに、風呂を――全てが木製で驚いたが、見慣れた形をしていて安心した――いただくと、あっという間に寝付いてしまった。伊織とクシャナも、隣の建物に居るはずだ。一方のリーシャはと言えば、到着したその場で、一二、一三歳の女の子に連れていかれてしまい、今はどこに居るのかもわからない。彼女の村であるということを考えると、妹だろうか。

 しかしこれから先、どうするべきなのだろうか。飛び出してきたはいいが、別段目的があったわけではなかったはずだ。状況的に、そうしたほうが良かった、と言うだけで。

いや、真広に限っては、目的らしきものはあった。外の世界を見てみたいというものだ。だが、それすらも、すでに半ば達成されている。

 コンコンと、ドアをノックするように拳を固めて床板をたたいてみる。慣れ親しんでいる固いベニヤの合板とは違う、衝撃を受け止めるような柔らかい感触が返ってくる。これが、木材本来の感触なのだろうか。その感触は、今真広が寝そべっているものが確かにこの世に存在していることを伝えてくる。コンコンと、もう一度叩く。今自分は未知の場所に居る。今自分は、他の人間が足を踏み入れたことのない世界に居る。気分は、大航海時代の探検家だった。なんとなく、真広の顔に笑みが浮かぶ。

折角だから、外を見に行ってみようか。ぼうっとした頭に、そんな考えが浮かんだ。いつまでもここに居ても仕方がないし、これからのことを決める上でも情報を集めることは必要だ。何より、真広はまだ、村の中をじっくりと見てはいない。

「よし!」

 そこまで考えたところで、真広は身を起こした。こうして寝転んでいても、眠くなるばかりで何の解決にもならない。元々、真広としては外に出たくて出たのだ。この先どうするかは別にしても、やはり村を見てみるべきだろう。ここに来る前に抱いていた疑問も、いくつか解けるかもしれない。

 真広は先ほどまで使っていた布団まで戻ると、急いで靴下を探す。衣服は風呂をもらったときに一式着替えていたが、村の人の好意なのか、元々来ていた服が綺麗に洗濯された状態で板の間の隅っこの方においてある。村からもらった服は、真広たちが普段来ているものとあまり変わらない作りになっていた。文化的な交流がないなら見たこともないような服を出されるかと思ったが、予想と違っていて安心するのと同時に少しがっかりした。だが、そのおかげで着替えるのに苦労しなくて済みそうだ。

 靴下はすぐに布団の中から見つかった。歩き通しでぼろぼろになった真広の靴下の代わりにもらったものだ。寝るときは足が寒かったのではいていたのだが、寝ている間に脱いだようだ。それをはくと服のところまで歩いていき、手早く着替える。着替え終わるとすぐに土間まで移動して、靴を探す。靴は、すぐに見つかった。強行軍のせいで多少痛んでいたが、これと言った問題はないようだ。

 靴を履いて玄関にはまっている引き戸まで歩いていき、閂をどうやって外すのか少し迷った後、真広は閂を外して引き戸を思い切り開け放った。

 ファンタジー。

 戸を開けて立ち尽くす真広の前には、そうとしか言えない光景が広がっていた。目の前には、藁葺の家と煉瓦造りの家が交互に並び、そのどれもが朝霧の中に沈み、朝日を反射してキラキラと白く輝いている。

着いたときは全く気付かなかったが、ここは村はずれにある高台のような場所らしい。真広たちが寝ていた家の他には、近くに家が無く、おかげで、村の全景が良く見えた。

 真広の居る場所から見える村は、簡単に言うと蜘蛛の巣のようになっていた。村の中心にある大き目の建物を取り囲むように円形の広場があり、そこから十六本の道が等間隔に伸び、それらと交差する同心円状の道が水面を揺らす波紋のように広がっている。今は朝食を準備する時間なのか、見事なまでに曲線によって区分けされている家々からは、白っぽい煮炊きの煙が立ち昇っているようすがうかがえる。村は大して広くないはずなのに、霧と曲線のせいで、大地を埋め尽くしてどこまでも続いていくような錯覚を覚えて、足元がふらつく。

 興奮冷めやらぬままに真広が視線を後ろに向けると、当然、先ほどまで真広が寝ていた家が目に入る。それは立派な茅葺の平屋で、昔話に出てくる庄屋の家みたいだ。そこからさらに目を横に動かすと、これまた木製の浴場が見える。昨夜真広たちが使ったものだ。そこからまた視線を横にスライドさせると、今度は赤い煉瓦で組み上げられたこじんまりとした二階建ての西洋風の家が視界に入る。日本の昔話の横に西洋のおとぎ話が並んでいるというのも変な感じだが。西洋の方は、確か伊織とクシャナが使っている家のはずだ。何しろ街には該当が一つもなかったので家の形が全く見えなかったが、確かに伊織たちは煉瓦の家があるあたりで建物に入っていったはずだ。

 村の様子を目の当たりにして再び嬉しい気分が込み上げてきた真広は、村の方の視線を戻して思い切り深呼吸しようとする。その時だった。

「あー、お兄ちゃん、目が覚めたんだ!」

「うおう!」

 真広の背中に、子どもの声がぶつかって来た。

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