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「それで、どうしよっか?」
全員が沈黙の泥沼にはまって言葉を発せなくなる前に、クシャナが言う。
「可能性としては、やっぱり二つじゃない? 戻るか。それとも、リーシャちゃんの言葉に従って、進むのか」
全員の反応を確かめるように、クシャナはここで言葉を切る。二つの選択肢が存在することに関しては皆異存がないらしく、伊織とイリックはコクリと頷く。真広もそれに習って、首を上下に動かす。
「ま、ここにずっといるというのは、ナンセンスだからな」
イリックがクシャナに同調するようにそう言うと、クシャナは改めて口を開く。
「そだね。そもそも今回のことは、わたしたちにはわからないことが多すぎると思うんだ。リーシャちゃんのことだけじゃない。きっと、わたしたちが知るべきだけど知らなかったことが、裏側にあると、わたしは思うんだ。だから……」
クシャナは、たき火にかざしてあった植物の刺さった枝を一本手に取る。
「戻るんじゃなくて、進んでみるべきだと思うんだ」
「ああ、いいんじゃないか」
間髪入れずにそれに応じたのは、イリックだ。
「俺も、進むべきだと思う。戻るのはいつでもできるものな」
そう言って、枝を一本手に取る。
果たして今の言葉は、イリックの本心から出たものだろうかと、真広はチラッと考えた。イリックはクシャナの気を引くために、重要な局面における選択ほどクシャナに合わせる傾向がある。今まではそれでよかったかもしれないが、今回もそれでいいのだろうか。どう考えても、この選択いかんによって、今後が大きく変わるはずあなのに。
「私は、反対です」
今度は伊織が考えを口に出す。しかし、迷いなく決めた前の二人とは違って、何かを拒否するみたいに膝を抱え、ぽつりぽつりと、頭を必死に働かせてまとまらない考えを全力でまとめている、それか一生懸命言い訳を考えているみたいな口調で話す。
「クシャナさんのおっしゃる通り、何か、私たちには及びもつかないことが、あるんだと思います。リーシャさんが来たのも、それに関わってのことなのでしょう。だからこそ、私は、戻るべきだと思うのです。私たちが関わっているのは、きっと大きなことだと思います。私たちが知っていることと、今見ている景色が食い違っていることからも、それは明白です。ならばこそ、引き返して、全てをデウス・エウス・マキナに委ねるべきだと思います」
伊織はデウス・エウス・マキナという語を特に強調して言うと、言葉を切った。言葉を切った瞬間に、全員分の視線が真広に集中する。残るは、真広だけだ。全員分の視線を顔に受けながら、真広は考える。
おそらく、どちらを選んだとしても、真広の選択次第で状況は決するだろう。進む方を選べば多数決に従ってそちらを実行することになるのは勿論であるが、戻る方を選んでも、きっとそちらを実行することになるだろう。全員の意見が真っ二つになっている中で、進むという可能性を考えることは、難しい。たとえ議論の末に意見が割れたまま進むことになったとしても、早晩意見の違いが表面に現れてくるのは火を見るよりも明らかだ。だから真広が反対すれば、きっと戻ることになるだろう。
クシャナが微笑みながら、イリックは興味なさそうに手に持った枝をいじりながら、伊織が何かを訴えかけるような真剣な表情を作りながら、視線を真広に向ける。
全員分の視線に射抜かれて、真広の手のひらにはいつの間にか汗がにじんでいた。緊張で喉が渇いたような感じがするが、真広の心は、とっくの昔に一つに決まっていた。そもそも決まっていなければ、この状況に真広たちが陥ることはなかっただろう。
「俺は……」
唾をのみ込んで喉を湿らせる。
「俺は、進むべきだと思う」
聞いていた全員の表情が、一瞬のうちに変わる。クシャナは微笑みが満面の笑みに変わり、イリックつまらなさそうな顔をし、伊織は表情が凍り付く。
そんな中、真広は、気づけば進むためのチケットのようになってしまっていた枝を手に取る。随分長い間議論していたらしく、その先端から、ほどよく焼けた植物の良い香りが漂ってくる。




