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盛大な土埃が晴れた頃、目の前にあったのは、長さ五mの巨大な棒と、棒の分だけ穴が出来た壁だった。壁の方は、穴のほとんどを落下した棒に塞がれてしまっていて様子がよくわからないが、目の前にある棒の方は白日の下にその構造をありありとさらしている。しかしその構造は、真広の聞いていたものとは大分違っていた。
真広たち街の住人が教えられた通りであるのなら、目の前の巨大な棒は手前と奥の一mがコンクリートで、真ん中の部分が三mにわたって鉛で構成されているはずだ。だが、目の前にあるそれは、コンクリートで形成されているのは手前と奥のほんの表面の部分だけであり、僅かに十㎝ほど進んだあたりからは、ガラス繊維やセラミック、その他の真広にはよくわからない物質がぎっしり詰め込まれている。理科室にあった地層モデルのようになっているそこを触ってみると、素材が変わるごとに違った感触を伝えてきて、とても変な感じだった。これではまるで、SFもののVRゲームで時々登場する、複合装甲で壁を作ったようではないか。果たして、放射能に備えるだけの壁に、ここまで大規模な構造が必要なのだろうか。
意識がすっかり壁の材質に盗られている間に、真広の足は、自然と穴の方に向かっていた。棒に手をかけて材質を確かめながら、徐々に穴に近づいていく。壁に一歩近づくたびに、穴から漂ってくる異常な臭気が強くなる。カビとヘドロが混じったドブみたいな匂いだ。
一体穴の向こうはどうなっているのか。疑問が真広の頭の中を駆け巡るが、残念なことに穴は落下した棒に塞がれる恰好になっていて、隙間が十㎝ほどしかない。それだけの隙間では、五m向こうをうかがうことはできない。
「すまないが……」
「ひゃい!」
すっかり考え事に夢中になっていた真広の意識を現実に戻したのは、右肩に置かれたリーシャの手と、真広にかけられた声だった。頭の中に集中しすぎていたせいで、ついつい素っ頓狂な声出してしまう。
それを取り繕うようにして振り向くと、足元の地面に剣を刺して、何か言いたそうな顔をしたリーシャが真後ろに立っていた。
その四m向こう――棒の反対側の端っこ――にはクシャナ、伊織、イリックが顔を突き合わせて立っている。
「そこをどいてくれないだろか。入口を作りたいのだが」
一瞬何を言われているのかわからなかったが、すぐに、そもそも脱出口を作るために巨大な心太を製造したことを思い出し、慌てて今いる場所から離れる。
「ありがとう」
代わりに巨大な心太の横に立ったリーシャは、再び手にした剣を軽く振り、心太をサイコロステーキに変えていく。先ほど縦に貫いたときはかなり苦労していたように見えたが、この素材は横からの力には弱いらしく、リーシャが軽く剣を振るとそれだけでサイコロ量産されていく。十回も剣を振らないうちに、周囲には細かい正方形のブロックが散乱し、今までふさがっていた穴が姿を現す。
「さて!」
人が通れるほどの広さを確保したところで、リーシャが勢いよく振り返る。その顔は、一仕事終えた人のみたいな笑顔だった。体の動きから半テンポ遅れて白に近い銀色の髪がふわりと広がり、思わずドキリとしてしまう。
銃弾が二人のそばを飛びぬけて行ったのは、その時だった。
空気を切り裂いて、鼓膜を平手で殴るような音が聞こえる。空中に広がるリーシャの髪が数本、切り飛ばされて地面に落ちる。何かが穴のすぐ脇に激突して激しく火花を散らせる。
それが銃撃であることを真広が正しく認識するよりもずっと早く、切られた髪の毛が地面に落下する遥か以前に、リーシャは動いていた。




