第九話 日常
日常回です。
翌朝。
鳥の囀りと、カーテンの隙間から漏れ出す朝日で目が覚める。
今日も頭がぼーっとし、無意識に太陽に目を奪われた。
俺は自宅療養という形で、表向きは退院となった。
要は、管理が黒兎に移ったのだ。
退院ということで、朝乃と隷歌が迎えに来てくれた。
昨日から感じていた薬品の匂いにも、既に慣れた。だが隷歌は未だに慣れないのか、ソワソワと鼻を摘んでいる。
「まだ慣れないか?」
「慣れない……家のトイレみたい」
「ハハっ。もうすぐ帰るから我慢してくれよ。今、朝乃が手続きをやってくれてるから」
正直、シェアハウスを《家》と言ってくれて、内心嬉しかった。
荷物をまとめて、ダラダラと喋りながら過ごす。まるで妹ができたみたいで、少し新鮮だ。
俺には義兄弟がいる。灰神家の兄が二人。
だが余り関わりが薄く、会えば楽しいが、兄弟らしいことはしてこなかった。
隷歌が増えたんだ。シェアハウスで、また家族らしいことをしたいと思う。
「なぁ、隷歌。ここ最近、危ないことはなかったか?」
「……一応あった。けど、全部問題ないよ。心配ない」
「なら良かった。帰ったら、ゲームでもしよう」
荷物を全てまとめ、朝乃と合流する。
担当医やナースに礼を言い、病院を後にした。
三人で小腹を満たすためにコンビニに寄って買い食いをしたり、本屋で隷歌の好みの本を探したりした。
年下はシェアハウスにもう一人いるが、自分に似た境遇の子には愛着が湧く。
歌護は衣明の妹ということもあって、「他人の妹」というイメージが強かったから。
自然公園に寄り道をし、そこで買った弁当を食べることにした。
小石川後楽園。江戸時代初期に作られた、築山泉水回遊式の日本庭園。
青い空の下、日常の象徴である鳩が餌を啄み、群れを成して飛んでいく。
気持ち──空気が美味しい。本当に久しぶりにリラックスできている。
あの事件から、クソ忙しすぎたんだ。
コンビニ強盗から始まり、隷歌を拾って、テロリストの撃破。
ここ数十時間、精神が落ち着く間がなかった。
「いや〜〜落ち着くよね」
「だな。最近忙しかったから、沁みるわー」
「あっ、わわっ」
「なんで、あんな動きができるくせに鳩が怖いんだか」
隷歌は人慣れした鳩が怖いらしく、オドオドと逃げ回る。
あの夜の動きは微塵も感じられず、まるで同一人物とは思えない。シンプルな肉弾戦だけなら、俺よりも上だったというのに。
「あっ、そうそう。学校の一件、みんな感謝してたよ。帰ったらモテモテかもね」
「俺は仕事をしただけだよ。そもそも……灰神家の役割は殲滅だからね」
「七家ってちゃんと役割が決まってるんだ……」
「日本史……」
「二人が言ってる『七家』ってなに?」
鳩から逃げ、零人の背後に回りながら隷歌が質問する。
「七つの家の集まりだよ。世界を護るために存在してるんだ」
七家──世界を護るために存在する、七つの家系。
過去に天皇に仕えていた御三家と、平安の貴族が合わさったものらしい。
冷静に考えれば、凄い家系に拾われたものだ。義務教育等を受けていなかったとはいえ、十二歳にしては何も考えていなかったな。
「じゃあ、忙しいの?」
「うーん。家系によるとしか言えないな」
「そうなんだ」
「みんな凄い人たちなんだね」
「いや──変人かな……。奇人っていうか、昔の小説家というか」
みんな良い人たちではある。
だが、戦闘になると頭が戦国時代の武士になる。「首を持ち帰る」とか「死んでも誉れ」とか。
逆に、捜月のような人を根底から舐めていそうな人物は少ない。あいつは本当に例外だ。
「あっ、そうそう。捜月と隷歌ちゃん、ゲームして仲良くしてたよ」
「意外な組み合わせだな」
「『死にゲー』ってやつをやったよ。楽しかった」
「……ドMゲーじゃん」
「捜月が意外に楽しそうだったよ。発見があったみたい」
意外だ。
捜月みたいなタイプが子供と遊ぶイメージはなかったし、死にゲーなんてストレスが溜まるジャンルをやるなんて思いもしなかった。
てっきり、あいつがやるなら「俺TUEEE」ができる無双タイプかとばかり。
「あとね。捜月さんにもういっそ幽霊として動けたら楽なのにって言ったら、笑われたの……」
「腹抱えてたねぇ〜〜」
「死にゲーのコンセプトを全否定じゃねぇか」
そんな会話をしていると、一通のメールが届く。黒兎からだ。
『君には二週間後、僕たちと一緒に豪華客船に乗る。世界の首脳たちの護衛をしてもらう』
『詳しいことは、僕たちが家に帰ったら話す』
ああ──隷歌の治療を任せた時に言っていたな。
首脳の護衛か。また大きな任務だ。今度ばかりは何事もなく終わってほしい。
正直に言うと、もう──疲れた。
この護衛任務を最後に、来年卒業までは七家の仕事を休もう。
隷歌と、シェアハウスのみんなと一緒に、家族とゆったりとした日常を送ろう。
「じゃあ、帰ってゲームしようか」
────こんなに早く感じる日常が、ずっと続けばいいのに。
設定解説
灰神家は一応、武闘派集団ではありますが、七家自体が元々頭戦国武士なので、全員戦闘できます……。
先出し情報
御大七家の役割一覧
桜満・総括
紅井・歴史保存
花霞・結界の維持や構築
数宮・政治介入
灰神・敵対勢力の殲滅
香風・司祭を担当
柔鳴・舞の継承




