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第八話 昏睡覚醒

ストックが切れました。二日に一話、投稿したいッスね。

 生暖かい。体に染み込んでいく誰かの意識。

 それは冷たく、肌寒い。

 そして──

 ──解析(トレース)開始(スタート)

 眠れない、目が冴えきった夜のように、意識が覚醒していく。思考回路が加速し、瞳に熱を感じる。

 脳、心臓、胃。炉心を異物が循環する。

 そのたびに、己の存在を刻みつけるように、異物が広がっていく。

 血管を通り、神経に伝わり、全身へと──順応する。

 重い瞼を開ける。視界に広がるのは、見知らぬ天井。

 ピッ、ピッと心電図モニターの音が病室に響く。

 腕には点滴のチューブが繋がっており、薬品の匂いが妙に鼻についた。

 肉体の倦怠感は精神にも影響しているのか、動く気にもなれず溜息を吐く。

 リモコンを操作しようと手を伸ばし、自身の身体に違和感を覚えた。

 ──〇・〇二秒くらいか? 身体がラグいな。

 当然か。ほぼ戦闘不能状態から無理やり肉体を操作したのだ。後遺症の一つや二つあってもおかしくはない。

「はぁ……」

 なぜ、こうも落ち込む必要があるのだろうか。

 あの事件で、俺は教室に入ってきた男をなんの躊躇いもなく《《殺した》》というのに。

 そうだ。俺は、あの中学生にさえナイフを振り下ろそうとした。

 何を悔いることがある……。

 頭の中で、自分自身の「殺す」という定義が揺れる。

 ────顔を見なければ、敵だから……殺せたのか?

 当然、俺にとって人を殺すことは初めてじゃない。

 そもそも──彼女は《《人》》でもないのに。

「……ダメだな。聞いてみるか、いっそ」

 枕元のナースコールを押し、意識が戻ったことを常駐する職員に伝える。

 医師から連絡が回ったのか、シェアハウスの面々が病院に押しかけてきたが、一度の入室は二人までということで、捜月と黒兎が最初に面会することとなった。

「あ、あのさぁ……色々思うことはあるんだけども。……君、人間?」

 眉をひそめ、黒兎が低く呟いた。その問いに、零人は勢いで返す。

「失礼だな、人間だよ! ははっ」

 皆が来る前、医師から伝えられたのは、自身の容態と昏睡状態にあったということだ。

 約三日の間寝たきりだった患者が、砕けたはずの右肩を平然と動かせば、疑われるのも無理はない。

 生まれた時から再生力には自信があり、大抵の大怪我でも一ヶ月程度で完治する。

 だが、今回ばかりは流石に無茶をしすぎた。

「本来なら、まだ昏睡状態。右肩も使えない容態だったんだよ。

 分かる? 無茶しすぎ。捜月にも頼るべきだった。協力を──」

 黒兎の説教を遮るように、いつもとは違う優しい声色で、捜月が零人に問いかける。

「……何か悩み事か? 浮かない顔だな」

「──いや、別に。」

 言葉に詰まる。

 ────多分、俺が求めているのは共感でしかない。

 七家(こいつら)と俺とでは、根本的な価値観が違う。生まれた時から世界を守ることが天命だと教えられてきた血族だからだ。

 養子として迎え入れられた俺とは、根底にある価値観が違う。

「あの胎児を殺したのを、悔いているのか?」

「……そうかもな。自分でも分からないんだ」

 敵対する──、それはあの中学生も、あの胎児も同じだった。

 だが、なぜこうも扱いが違うと感じるのか。

「お前は正しいことをした。仕方がなかったんだ」

「僕はその言い方、好きじゃないな」

「……」

「だって、それは思考停止じゃない?」

 思考停止──まるで逃げ場を塞がれたような気分だ。

 仕方ない。だって、元々殺す対象だった。

 逃走を図る標的に、俺はナイフを振るっただけ。そう──

 ──《違う》。

 俺は殺した。確かに殺した。

 だが、正しい「殺し」とはなんだ? 正しい「死」とはなんだ? 分からない。

 多分、生涯この問いに囚われるのだろう。

「理由は僕たちにも分からない。けど、理由を求めて生きていくのが人間でしょ」

 何のためか、何の意義か、何の正義か。

 誰のためか、誰の意義か、誰の正義か。

 理由なんて、最初からなかったのかもしれない。

『お前を殺す。ただ殺す。

 理由? ねえよ! いや、獣もどきが人を殺す──本能かっ?!!』

 口に広がる柔らかく、生臭い、ドロドロとした、溶けそうな肉。味蕾が感じるのは《《味》》ではなく、取り込まれる未知のゲノム情報。

『ねえ、君はどんな正義の味方(ヒーロー)になりたい?』

 あの子──いや、あの子って誰だ?

 俺は、施設で生まれて……は? いやいや、押し付けられて、いや違うだろ?

 俺はあの子を殺した。

 元から、俺は──

 ────《人殺し》だった。

 記憶が錯綜する。

 今でも胸の奥に感じる──「生きる」という彼女の応え。

 いつも、誰かの笑顔を奪う選択肢を突きつけられる。選択の瞬間、常に誰かの死が天秤にかけられている。

 顔も見えない、見知らぬ男。

 腹が膨らんだ、名も知らぬ少女。

 生まれたばかりの未熟児。

 何の罪もない民間人。

 殺した。死んだ。殺した。守った。

 だが、あの子には罪がなかった。罪があったのは、母に刃を向けた──俺か。

「ねえ? ねえ!」

 霧を払うかのように、聞き覚えのある声が響いた。

 視界に入る手。女性特有の長くしなやかな指と、金色の長髪。名は明神(あけがみ)朝乃(あさの)

 シェアハウスメンバーの一人であり、衣明のバンド仲間。

 担当はドラムである。

「黒兎たちは?

 え? 今いなかったか? 今まで喋っていた気がするんだが──」

「ん? 帰ったよ。もう十分前くらいに。

 どうしたの? 顔色も悪そうだけど」

「いや、大丈夫だ。安心してくれ」

 安心したのか、朝乃は棚に置かれていた林檎を手に取り、ナイフで皮を剥き始める。

 きっと、疲れているんだ。

 最近、子供と戦うことが続いている。

 コンビニ強盗、隷歌、中学生、そしてあの子。

 あの頭、向日葵みたいで綺麗だったな。

 ────何を考えてるんだ、俺。気持ち悪い。

御愛読ありがとうございます。頻度は減りますが、今後もよろしくお願いします。

零人が何故か悩んでますね。彼なりに答えを出せればいいんですが。そしてこれからが一章本番です。

ブクマ、感想などいただると作者が喜びます。


設定説明 シェアハウスメンバーについて

シェアハウスメンバーは総勢七人、隷歌含めて八人です。全員が仲が良く、たまにTRPG等をします。GMは基本捜月や衣明がやります。

元々は捜月が駄々をこね、仲の良い零人と黒兎を誘い、衣明が自分の妹とバンドメンバーに呼びかけ現在の形になりました。

残り二人もいつか出したいね

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