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02 『天才紅教授の魔法講義 其の二十六』

梗概/黄戸島村立大学魔法科講師・紅教授と縫目助教の日常。縫目ちゃん失踪事件の真相。

    其の二十六 縫目ちゃんの失踪(1/6)復活


 四月の黄戸島は、すでに桜の盛りを過ぎている。代わりに青も鮮やかな藤花が、ここ黄戸島村立大学の白い学棟をつなぐ回廊に紫の影を落としていた。夕陽を浴びた第五学棟は、巨大な水晶が光を吸い込んだかのように赤く輝いている。その最上階にある紅教授こと、わたしの教授室からは、焼けるようなママレードの香りが漏れ出していた。だが、その甘い空気は一瞬にして凍りつくことになる。

「縫目ちゃんが消えた。もしかして、島村学科長と駆け落ち?」

 確かに彼女はファザコンめいたところがあり、学科長がタイプだった。そこをロリコンな学科長にたらしこまれ、事件に……?

 わたしは、南側のパノラマ窓を背にして立っていた。ガラスに映る、わが、つややかな黒髪が縁取られ、切れ長の双眸が美しく細められている。白衣の下に洗練された服をまとう立ち姿は、自分で言うのもなんだが、他の追随を許さぬ圧倒的な気品を放つ。ふっ。


 魔法科紅教室。

「教授。 僕たちは一歩もここを動いていないんですよ!」

 北側の重厚な木製扉の外では、魔法科二年生の男子学生・編隊三人衆が石像のように固まっていた。メガネがレンズを曇らせ、必死な面持ちで訴える。彼らにとって、自分たちが敬愛する縫目ちゃんが、監視の目をすり抜けて消失するなど、到底信じがたい出来事であった。

 学生たちに自習を命じ、わたしは、島村学科長のいる中央棟円形講堂に向かう。擂鉢状になった席を埋め尽くす百人を超える学生たちが、ロマンスグレイの髪と、完璧に着こなされたスーツの姿に見惚れている。そこへ、ドドドっと、雷鳴のような蹄の音が飛び込んだ。

「姫様。縫目殿はいずこか?  島村学科長!」

 白馬シルバーシップを駆り、講堂の回廊に躍り出たのは異世界からやってきて守衛長に収まった騎士ジャルジェだった。彼女こそ、あっちの世界の貴族令嬢で、よほど〝姫様〟だ。その人も縫目ちゃん同様、私と同じ職員用宿舎に、ルームシェアしている仲だ。

 プレートアーマーの姫騎士が抜き放ったレイピアを、ロマンスグレーの紳士に向ける。だが、片眼鏡の学科長もさるもの。まったく動じることはなく、双眸を細めていた。そして、ウィンクをする。――ただそれだけの所作が、世界のことわりに反していた。

 島村学科長が放つ〝魅了チャーム〟は、一瞬で姫騎士の脳内を侵食する。彼女の強張った面立ちが、妄想してふやけたような顔に変質してゆく。彼女は教壇の前で、レイピアを握ったまま、ぽわーんと溶ろけていた。

 同室の仲良しさん捜索をしていたのに、目前の「容疑者」にはぐらかされてしまったのだ。面妖な。

 学内は全面ガラス張り。シースルーエレベーターが外壁を上下し、回廊状の校舎はどこからでも死角がないように設計されている。しかし、誰一人として、彼女を見かけた者はいなかったのだった。

「シースルーの箱の中に縫目ちゃんが通れば、彼女の親衛隊たる我々が見逃すはずがない!」

 ――うわっ、相変わらず、きもい子たちですこと。

 第四学棟の窓際で、超望遠レンズを構えていたメガネが絶叫する。重量級のカブも軽量級のコゾウも、その言葉に激しく首を振って同意した。彼らの変態的執着心によって網の目のように張り巡らされた監視網は、最新の軍用レーダーより緻密だもの。だが、その網には、私の体温も、私の影も、一切かからなかった。

 ジャルジェはようやく自力で島村の暗示を解呪し、愛馬の腹ふたたびを蹴る。


 後で聞くところによると、 

 時速八十キロ。風を切る白馬はキャンパスの芝生を蹴立て、外輪山の急勾配を駆け上がる。島全体を俯瞰できる頂上付近、晩春の陽気にも関わらず、先日の残雪が白くへばりつく火口丘で、彼女は〝それ〟を見つけた。

「これは……姫様の足跡じゃない……」

 明け方、黄戸島小富士が小噴火を起こして薄く積もった火山灰の上に深く刻まれていたのは、人の靴跡ではなかった。それは、重機が通ったかのようなキャタピラの轍だった。島の中央でまだ噴煙を上げている黄戸小富士が、夕闇の中で不気味な影を伸ばす。物理的な視線が交錯し、魔法的な暗示が飛び交う中であたかも、縫目助教の存在だけが、世界から情報の欠落デリートしたかのようではないか。

(つづく)

登場人物

01 紅教授(結城紅子):年齢不明の魔法使い。年齢不詳。八百比丘尼という説がある。愛車はサイドカー仕様九九九CC、ミリッター解除のスズキ・KATANA。

02 縫目助教(縫目フラ子):二十六歳。ロリ体型。紅教授の弟子。

03 ジャルジェ:紅教授が異世界からお持ち帰りした女騎士。バン・キュッ・ボン・ズガーンな九頭身スーパーモデル体型。縦巻金髪。愛馬は白のシルバーシップ。略して〝シルシ〟

04 メガネ、カブ、コゾウ。大学二年の変態三人衆。

05 管狐:紅教授が拾って来た式神。ペット。

06 島村学科長:ロマンスグレイのイケオジ。紅教授の元カレで、ファザコンな縫目助教が片思いしている。

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