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「……俺、今すっごい自己嫌悪してるんです」
ディザストロが隣に座ったのを合図に、トオルは一応周囲に人が居ないことを確認してから小さな声で話し始めた。
膝の上で両手を軽く握り、その手に視線を落とす。気分はさながら取り調べを受ける犯罪者だ。
……あながち間違いでも無い気もするが。
「この間修学旅行があったんですけど、その時になんというか……他人を巻き込む問題を起こしてしまいまして。それで、焦って知り合いに電話してしまったんです」
「問題?」
「ええっと、子どもだったんですけど、怪我させたというかなんと言うか……。それで電話してしまったんですけど、相手からすればそんなの聞かされてどうしろってんだって感じでしょう? 近くに居るわけでもないのに。それで、相手が出る前に切ったんです」
「ふぅん」
「けどすぐに相手から折り返しの着信が来まして。俺、それに出られなかったんです。もし電話に出て相談して、呆れられたらどうしよう。嫌われたらどうしようって考えて」
ぎゅっと、軽く握っていただけの手に力を入れる。
顔が上げられなかった。ディザストロがどんな顔しているのか、確認するのが怖い。
ディザストロとトオルは確かに友人ではない。だが、トオルが彼に好印象を持っていたのもまた事実。
そんな彼にも、彼にすらも、面倒な奴だと。そう思われるのが怖いのだ。
それでも、一度開いた口は閉じることなく続きを話し出す。
「着信が切れた後に俺を心配する連絡が入ってたんですけど、嘘を吐いて誤魔化してしまって。自分勝手に相手を振り回したくせに、また自分勝手に嘘を吐いてしまった。それが、俺は……」
続く言葉はなかった。これ以上、続ける資格がトオルにはなかった。
いや、それを言うならディザストロに相談する資格なんて初めからなかったのだ。それなのに、そこに気付かないふりをして話しただけ。
つくづく自分勝手だな、俺は。
口元だけでそっと自嘲する。きっともう、どうしようもないほど手遅れなのだと。
「……ちょっと聞きたいんだけど、修学旅行先って○○県かな? それと、子どもって男の子?」
「え? えっと、そうですけど……」
「……遠藤君。この事件の被害者の男の子に、見覚えはあるかな?」
そう言ってディザストロが懐から取り出したのは、新聞の切り抜き。内容は、○○県で小学生男子が一人、友人との遊びの最中に行方不明になったというものだった。
目を見開く。短い記事の内容を再度読み返し、小さく貼られた対象の子供の写真を見る。
見覚えがあるか、だって? そんなの、あるなんてものじゃない。
「……この事件の犯人が、君なんだね?」
ディザストロの言葉は疑問形だが、声は確信に満ちていた。きっとここから何をどう言い訳しても、誤魔化すことなんてできないのだろう。
記事の写真は、モノクロの世界で笑う少年は。間違えるはずもない。あの日トオルが襲ってしまった、被害者の子供の顔だった。
あのあと病院側がどういう対処をしたのかは知らなかった。トオルの精神はそこを気にするまで落ち着いておらず、ひどく荒れたまま旅行を終えていたのだから。
視線が記事から離れない。どうして。なんで。声に出せない疑問符が飛び回る。
先程から言うことを聞いてくれない口は開閉を繰り返すだけで、何の音も発さなくなってしまった。
「あっ、心配しなくていいよ。俺は遠藤君を警察に突き出したりするつもりはないから」
「え、あ……なん、なんで?」
「俺が聞きたいのは、知りたいのは一つ。遠藤君、君は……」
__吸血鬼、かい?
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