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『__吸血鬼、かい?』
トオルは、自分の喉がひゅっと鳴るのを感じた。
どうして、とか。なんで、とか。もうそれどころじゃない。
バレた? 自分が普通の人間ではないと。名称に「鬼」の字を与えられた異形の存在だと。バレてしまった?
実際にはトオルは「半吸血人間」であって「吸血鬼」ではない。しかしそれは宏人がそう呼んでいるだけで、トオルにはその二つの違いをよく分かっていない。
それにトオルが分かっていたとして、一般の人間には知る由もないのだ。
人の血を吸う存在としての総称。人から外れた人外の鬼。それが吸血鬼。
「やっぱり。……トオル君、よく聞いて? 俺の知り合いにも居るんだよ、吸血鬼が」
「……え、え!」
「そいつに色々教えてもらってね。その上でもう一度聞くよ? 本当は、何があったの?」
覗き込むようにしてディザストロは真っ直ぐにトオルの瞳を見つめる。蜜色の瞳が陽光を反射して目に痛くて、堪らずに視線を逸らす。
どうする。彼は、彼を、信じてもいいのだろうか?
吸血鬼が知り合いにいると言っていた。けれどそれが本当かは分からない。カマをかけている可能性も捨てきれないのだ。
例えば、彼が記者だとしたら? 警察や病院関係者などに知り合いがいて、たまたま事件の概要や首の傷口などを知られていたら?
吸血鬼が実在するという事実を知らずとも、それらの情報から吸血鬼という単語が出たとして不思議ではないだろう。
けれど。
ふぅ、と小さく息を吐く。けれど、例え彼が記者だとして、だからどうなる?
きっとディザストロはトオルが吸血鬼だと確信しているだろう。だから正誤の確認ではなく、続きの話を促している。ならばもう、嘘も誤魔化しも意味はない。
それなら全て吐いて楽になろう。その結果、この後でどんな痛い目を見ようとも、それはここで諦めて話してしまったトオルの責任だ。
すっと、逸らした視線を戻す。
「実は……」
トオルは全て話すことにした。公園で話す事柄ではないだろうが、通行人は今自分達の声が届く範囲には居ない。
ぽつりぽつりと言葉を落とす。ゆっくりと、次第に早口になっていく言葉は、どうしてだろう。何故なのだろう。
言葉が考えるよりも先に口をついて出る。溢れる。苦しいのは、息継ぎが上手くできないからだろうか。胸が詰まるのは、どうして?
どろりとした、澱みのようなものが胸で渦巻いているような錯覚。
言葉とともにそれも吐き出されているようで、目には見えないながらも自分の口から黒い靄が出ているような気さえする。
「……と、いうことなんです」
「……」
「俺は我儘なんです。そして自分勝手だ。分かってる、分かってるんです。彼を責めるのはお門違いだって分かってるのに、責任転嫁したくなってしまう」
はっ、はっ、と呼吸が浅くなる。喉が狭まって、目頭が熱くなる。
苦しい。苦しい。どうして? 何が?
だって、自業自得なのだ。子供を襲ったのはトオルで、宏人に連絡しようとしたのもトオルで、それを途中で切ったのもトオルで、嘘を吐いたのもトオルで。
全部トオル自身の判断。全部トオルのしたこと。宏人に責は無い。
それでも、思ってしまう。……どうして、気付いてくれないのかと。どうして、様子を見に来てくれないのかと。
ああ、くそ。なんて勝手な言い分だろう。強い自己嫌悪に吐き気がする。
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