祭り
貰った水を飲むと、一気に車酔いが楽になった…気がする。
ゆっくりと階段を登るにつれて、賑やかな声が聞こえ、明かりが見えてきた。
階段を登りきると、正面にある本殿の方から声をかけられた。
「おぉ、あんちゃん。こっち来なこっち」
そう言いつつ、老人の一人が横にスペースを作りながら、私を呼んでくれた。
「あんちゃんは酒、どれくらいの量飲むんだい?」
「私は多少飲めはするんですが、下戸なもので…ビール一杯でも飲むと、かなり酔ってしまうんです」
「そうかそうか、ならあんちゃんはこっちの方がいいな。社務所の方は皆酒飲みまくってるけど、こっちはお茶とかだけだからな」
「そうそう。ま、もっとも、こっちも酒を止められてる死にかけの老人達だから盛り上がりに欠けるがな」
老人達はそう談笑しつつ、一人が私にコップを渡してくれた。しかしハッとし、申し訳なさそうに私に話しかけてきた。
「すまねぇ、さっきお茶無くなっちまってたんだった。悪いが、水でもいいかい?」
「あ、水は持っているので大丈夫ですよ。」
そう言いながらさっき貰った竹の水筒を出すと、老人達は驚いたように集まってきた。
「はぁ〜、見事な竹筒だねぇ…この水筒どうしたんだい?」
「先程、階段の下で若い女性に頂いたんです。」
そう言うと、老人達は水筒を中心に輪になるように集まり、何やら話し始めた。少しすると全員が納得したような反応をして、老人の一人がニコニコしながら水筒を渡してくれた。
「何にせよ、良い水筒とご縁だ、大切にしなよ」
水筒を渡してくれた老人がそう言うと、周りの老人達も、うんうん、と頷いていた。
すると、老人の一人が思い出したように。
「そうだそうだ、あんたまだこの神社の神さんの像見てないだろ?」
「はい、見てないと思いますね」
「なら今のうちに見とき」
そう言いながら、集まっている場所の少し奥、白いカーテンのような物の奥へ行き、こちらに手招きをしていた。
奥へ入ってみると、
人間と見た目はほぼ同じだが、人間の耳はなく、代わりに動物のような耳がついた美しい女性の像。そして女性が見つめる先、足元の方には三匹の子狼がいる。
親子なのだろうか、女性の目はとても優しく下の子達を見つめていた。
どこかで見たことがあるような、そんな懐かしさを感じる像だ。
「この神様はなんという神様なんですか?」
「さぁ?何せ昔から祀られてるから、私達にも詳しい事は分からんでね。狼の神さんだって事くらいしか分からんのよ」
「そうなんですか。こんな綺麗な状態って事は、昔から大切にされてる神様なんですね」
「そうだね、ここら辺の人間は神さんと言えばここの神さんだからね」
「ワシらは何の神様かもよう知らない神様を代々祀ってるのよ、知らぬ間に呪われてたりしてな」
「お前なんか髪が呪われてすっからかんになってるからな」
「これは、歳だ歳。」
そんな会話をしながら像について教えてくれた老人は、老人達が集まっている方へと戻って行った。私も像に一礼をして戻った。
「そういえば、私に水筒を渡してくださった女性はどなたなんでしょうか?出来ればお礼をしたいのですが」
そう聞くと老人達は顔を見合わせ、少し笑いながら
「あの子はこの神社の近くに住んでるんだけどな」
「恥ずかしがり屋だからいっつも遠くから見てばっかなんだ」
「んだんだ。だからお礼は、今度会った時にすればいいんよ。」
老人達はそう口々に笑いながら、答えた。
祭りが終わる頃、私は神社の裏手の方へと向かっていた。
帰りに老人の一人の家にお邪魔する事になったので、祭りの片付けが終わるのを待っている間に、神社の周りを散策しようとしていた。お邪魔すると言っても、送ってもらうついでに野菜の苗を分けてもらう程度だが。
神社の裏手へ着くと、あの女性が神社の裏の縁側のような場所にお猪口を持って、座っていた。
彼女は酒を飲みながら月を見ているようだった。
邪魔するのも野暮かと思い、少し悩んだが、私はお礼をしたかったので話しかけようと近付くと彼女も私に気付いたようだった。
「あの、水筒ありがとうございました。今度お礼をしたいのですが」
「あの水筒なら簡単に作れるので、気にしないで下さい。それに、こんな田舎の山に若い人が住んでいるだけでありがたいので」
「ですが…」
「でしたら、近いうちに家に伺うのでお礼はその時ということでどうでしょうか?一本松の家ですよね?」
私の家の近くにはここら辺で唯一の松の木が生えており、畑やあぜ道の真ん中に一本だけ生えているため一本松と呼ばれている。
「分かりました、ではそのようにお願いします」
「ふふ、それでは採れたての山菜でも持ってお邪魔しますね」
そう言うと彼女は、飲み終わったお猪口をしまい、隣に置いてあった提灯を持ち立ち上がった。
「では、そろそろ片付けも終わりそうですし、帰りますね。私の家はこちらの方向なので、これで」
そう言うと彼女は神社の裏の山の方へ歩いていった。
私は段々と森に消えていく彼女を見送り、鳥居の方へと戻った。




