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林田藩  作者: 林田力
林田藩
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林田焼

政宇は新しい試みに熱心だった。たとえば、領内の産物を調査して特産品を作った。

「これを名物にして売り出せばよかろう」

「名物とはなんだ?」

「名物とは、その名のとおり、土地の名産品のことじゃ。これを作って売ればよい」

「ふうん……。しかし、どうやって作るのだ? それに、どこへ持って行けば買ってくれるか?」

「わしに任せてもらおう」


林田には名物作りのための工房が作られた。工房では若い職人達を指導し、様々な品物を作らせた。その一つが金平糖である。南蛮から伝わった菓子で、砂糖を使った甘いお菓子である。

「この小さな粒々した食べ物は何ですかな?」

家臣達は不思議そうに尋ねた。

「これは『金平糖』という菓子ですぞ。甘うござる」

「ほう! これが!」

試食してみて、皆、驚いた。こんな美味しいものがあるのかと感心するばかりであった。

「なるほど、これはいいものかもしれませぬ」

評判を聞いて買い求める者が増えた。特に女性達に人気が出た。また、藩でも家臣の家族や女中などに振る舞われるようになった。領民も家臣の家族も楽しめ、しかも銭になるということで、林田藩の評判はますます高まった。その様子を見て政宇は満足げに笑った。これは藩主一人の力で出来た訳ではない。家臣達が一生懸命働いたからである。政宇は、彼らの働きに感謝した。


政宇は藩内の二ヶ所に窯を築き、林田焼を始めた。林田焼は西播磨地方で最も古くから焼かれた焼き物になった。林田焼と林田瓜は林田藩の特産品として将軍家に献上した。政宇は将軍の前で林田焼の茶碗を二つ並べた。一つは無地(白)、もう一つには黒で松の枝が描かれていた。

「どちらがよろしいでしょうか?」

政宇が尋ねた。

「どちらもよいではないか」

将軍は答え、政宇は両方を献上して帰った。


林田焼は半陶半磁の鮮やかさを特徴とする。当時の京都は「わびさび」から「きれいさび」への流行の転換期であった。鮮やかな林田焼は「きれいさび」のトレンドにマッチした。「きれいさび」は小堀遠州が形づくった美的概念である。遠州は近江小室藩初代藩主で、茶人や作庭家として名高い。遠州の息子の小堀正之が小室藩第二代藩主である。建部政長の娘は小堀正之に嫁いだ。


「きれいさび」は華やかなうちにも寂びのある風情になる。一般の寂びと異なり、古色を帯びて趣はあるものの、それよりも幾らか綺麗で華やかな美しさがある。遠州の茶室には窓を増やして明るくした「擁翠亭」が知られている。利休の侘びよりも明るさを志向する織部の好みをさらに発展させた感がある。


一方で林田焼は「わびさび」を全否定しておらず、貫入を意識したつくりになっている。貫入は素地とうわぐすりの膨張率の差などにより、釉に入った細かいひびである。ひびが入ることが逆に美的価値を向上させると捉えられた。


林田焼は野々村仁清の影響を受けた。仁清は丹波国桑田郡野々村生まれの陶工。瀬戸で轆轤ろくろの修業を積み、仁和寺門前に御室窯おむろがまを開いた。京焼の大成者である。仁清の号は仁和寺の仁と清右衛門の清を合わせたもの。「きれいさび」の鮮やかさは仁清と重なる。また、仁清は自分の作品に「仁清」の印を捺し、自分の作品であることを明確にしたことが特徴である。林田焼も赤字で陶印がある。


林田焼は芸術性の高いものであったが、官吏の腐敗によって死蔵され、廃れてしまう。

「これは……見事な茶碗だな」

「はい」

「この茶碗は素晴らしいものだな。こんなものが世に出回ったら大変なことになるだろうな」

「そうですね」

「よし!決めた」

「何を決めたんですか?殿」

「この茶碗はわしが持つことにしよう」

「えぇ!?そんなことをしたら大騒ぎになりますよ」

「大丈夫だ!これの価値を知っているのはこの世ではわしだけだ」

「そ、そういう問題ではないと思うのですが……」

「とにかく、このことは誰にも言うでないぞ!!」

「わ、わかりました……」

茶碗を隠し持った人物は後日、このことを後悔することになるが、それはまた別の話である。


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