建部政長は豆まきしたい
政長は節分に豆まきをした。豆は「魔滅」(まめ)であり、魔を滅する力があるとされた。
「千代女、豆まきを始めるぞ」
「はい、若様」
「まずは、この枡に入った大豆を食べろよ」
「承知しました」
「次に、この升の中の水を飲み干すんだ」
「えっ……」
「これは豆撒きの儀式なのだ。早くしろ」
「わかりました」
千代女はしぶしぶと枡の中に入っている大豆を口に入れた。そして、水を飲もうとした。
「待て!」
「……」
「この枡の水を飲む前に、俺が『福は内』と言うから、そうした後に飲むのだ」
「……」
「わかったな。よし、始めよう」
「ちょっと、待って下さい!」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「この儀式は何ですか?」
「節分の行事の一つだよ。知らないのか?」
「知りません」
「そうか、仕方ないなぁ。いいか、よく聞け。これから言うことを絶対に忘れるでないぞ。いいな」
「はい」
「では、『福は内』『福は内』『福は内』『福は内』『福は内』『福は内』『福は内』…………」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん? 何だ?」
「それ、何回も言わないといけないんですか?」
「そうだが、それがどうしたのだ?」
「いえ、別に……」
「言いたいことがあるなら言ってくれ。気になるではないか」
「何でもありません」
「ふ~ん、変な奴だ。まあ、いいや。じゃあ、始めるぞ」
「はい……」
こうして豆撒きが始まった。最初に俺が外に向かって豆を投げた。
「えい! えい!」
続いて、千代女の番になった。彼女は枡の中に手を入れて、中の大豆を掴んで外に投げる。
「えい!」
次は千代女の番である。彼女が枡に手を入れる。すると、中に入っていた大豆が彼女の手にぶつかった。
「痛ッ……」
「おい、大丈夫か? 怪我はないのか?」
「はい、平気です」
「でも、血が出ているじゃないか」
「本当ですね……」
「手当てをしてやる。こっちに来い」
政長は彼女を自分の部屋に連れ込んだ。そして、傷口に軟膏を付けて、包帯で巻いてやった。
「これで良し!」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ところで、さっきのは一体何だったのですかね?」
「何の話だ?」
「ほら、私が手を突っ込んで、大豆を掴んだ時に……」
「ああ、あれね。あれはね、大豆の精霊の悪戯というんだよ」
「そうなのですか?」
「うん、そういうことになっています」
「へぇー、不思議なこともあるものなんですね」
「まあね」
「あの、若様……」
「何?」
「実は私、先程、少しだけ怖くなりました。もし、大豆の精霊の悪戯がなかったらと思うと……とても怖いです」
「千代女……」
「だから、私は一生懸命に生きます。そして、必ず幸せになります」
「うむ、その意気込みがあればきっとできるはずだ」
「はい!」
政長が千代女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。




