千利休
千利休は侘び茶を大成した。利休は茶の湯の大成者であり、重々しい人物として描かれることが多い。しかし、新しい文化を発展させた人物としての軽やかさも持っていた。
「この茶碗は楽焼と呼ばれる焼き物の傑作です」
「……なるほど」
確かに見事な出来栄えだ。感心したようにうなずいた後、寿徳は尋ねた。
「ところで、その茶の湯とは一体なんなのです?」
「えっ?!」
利休は目を丸くして驚いた。
「まさか、ご存知ないんですか!?」
「はい……。わしは田舎者で芸術には疎いのです……」
申し訳なさそうな顔をする寿徳に、千利休は慌てて言った。
「いえ、そんなことはありませんよ!ただ、ちょっと意外だったもので……」
「そ、それで、茶の湯というのはどういうものですか?」
「はい、まずは茶を味わってもらいましょう」
利休はお茶を出した。
「どうぞ召し上がってください」
寿徳は促されるままに茶碗の中の液体を口に含んで飲み込んだ。
「うん、うまいですなあ」
「ありがとうございます」
利休は微笑を浮かべて言った。
「しかし、これは何という飲み物なのですか?」
「はい、抹茶と言います」
「ほう、これが抹茶ですか……」
その後、二人は交互にお茶を飲みながら会話を続けた。
「お点前はただの手順ではありません。お茶を通じてお客様に心から満足していただけるよう、心を込めて行うものです」
「おもてなしの心」は茶の湯において最も大切な精神であり、全ての作法の基本となっている。
利休は豊臣政権の重要人物であった。秀吉は「天下を取るためには、わしのそばにいる人間はすべて味方にせねばならぬ」と言い出し、利休を呼び寄せた。秀吉は何かある度に利休に相談を持ちかけた。豊臣秀長は大坂城を訪れた大友宗麟に「公儀のことは私に、内々のことは宗易(利休)に」と説明したほどである。
茶室は利休にとって聖域であった。この露地でなら、どんな悩み事も打ち明けられる気がした。利休は秀吉のために炉端を整えて待っていた。利休の前に座り、秀吉は言った。「今日はわしの話を聞いてほしいのだ」
「はい」
「実はのう……」
秀吉は語り始めた。
先日、酒宴があった。重臣達も同席していたのだが、彼らは秀吉の前ではいつも緊張している。それは主君に対する畏怖の念によるものだろう。しかし、寿徳だけは違った。彼はまるで自分の部屋にいるかのようにくつろいでいた。それが秀吉には気に入らないらしい。
「あいつときたら、何度言っても改まらんのだ」
「そうですか」
「だから、一度ガツンと言ってやりたいと思ってな」
「では、ご自分で言えばよろしいではありませんか」
「うむ……そうなんだが……。しかし、面と向かって言うとなるとなかなか勇気がいるものだぞ」
「はあ?」
「それにだ。もし、わしの言葉を聞き入れてもらえなかった場合どうする? あいつらはきっと『殿下お言葉とは思えませぬ』とか何とか言い出すに違いない。そうなったら厄介ではないか」
「そんなことにはならないと思いますけどね」
「なぜわかる?」
「だって、あなた様ですもの」
「どういう意味じゃ?」
「あの方はあなたのことをよく知っているはずですよ。あなた様のことを信じているからこそ、何も言わないんじゃありませんかね」
「ほう。そういうもんかな」
「はい」
「ふーん……」
信長は腕組みをして考え込んだ。そして、「よし!」と言った。
「決めた! やはり、わしが直接言おう」




