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林田藩  作者: 林田力
建部寿徳
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茶の湯

戦国時代末期から桃山時代に大流行した文化が茶の湯である。茶道は今でこそ伝統文化であるが、当時はルソンの壺など南蛮渡来の文物も取り入れた最先端の文化であった。


茶の湯の心得に一期一会がある。この一期一会は、一生のうちでただ一度の出会いというよりも、人と人が出会うことのできた機会は二度とないという意味である。茶の湯はこの一期の出会いの機会を最大限に生かすためのものなのである。茶の湯の作法は、この一期一会の思いによって成立している。茶の湯を究めるためには、何事も一瞬たりとも無駄にせず、今この時を真剣に生きなければならない。茶の湯は究極の贅沢である。茶の湯は茶室にこもり、静かに行う。茶の湯は茶の味を賞でるものであると同時に、茶の香りを楽しむ。茶の湯は茶の味と茶の香りの両方を同時に楽しむ。


茶会の出席者に求められるものは何か。それは茶を楽しむことである。茶会とは単なる集まりではない。茶を楽しむための集いなのである。茶会に出席しても、ただ座っているだけでは何も得るところがなく、時間だけが過ぎていくだけだ。「お茶を飲むこと」は、単に茶碗を手に取って飲むだけの行為ではない。そこにはさまざまな作法があり、礼儀あり、楽しみ方がある。それを理解せず、形だけを真似しても本当の意味での茶会は成立しない。


文化人は競って茶道具を収集した。茶道具は単なる物ではなく、それ自体が芸術品でもある。茶道具の価値を見極めることは、単に鑑定眼を養うということだけを意味する訳ではない。茶道とは何かを知るために必要不可欠なものなのだ。茶道具は、茶人として生きるために必要な知識を教えてくれる。


茶人は茶道具の名品を愛しているだけでは駄目である。茶道具を愛しながら、同時に茶そのものにも深い愛情を持っている必要がある。それができないなら、茶道具だけ集めても意味がない。


茶人にとって茶道具は隠すものではない。隠すものには人の心を動かす力がない。隠すことに美学はない。そこに茶の湯の精神はない。本当に大切なものほど秘蔵してはならない。

柳宗悦『茶と美』(講談社、一九八六年)は茶道具を秘蔵する性向を批判する。「真に物を愛する者は必ずや悦びを人々とも分かちたいであろう。見せない態度より、見せたい態度の方が遥かに自然である。また、気持ちとしても明るい」(九二頁)。その上で、「徒に秘蔵するのは茶の精神に悖る」とし、「茶人の趣味は変態であってはならぬ」と茶道具を秘蔵したがる趣味を変態と切り捨てる(九三頁)。


誰が所有したかという事実も茶道具の来歴を示すものとして重要である。紛争の対象となった事実も茶道具の価値を高めるものになる。有名な墨蹟に「流れ園悟」がある。これは北宋の禅僧の圜悟克勤えんごこくごんの墨蹟である。桐の古筒に入れられて薩摩の坊津に流れ着いたという伝承から「流れ園悟」と呼ばれる。この墨蹟は堺の豪商の谷宗卓と伊達政宗が所有権を争い、古田織部が二分割して分けた話が有名である。この経緯が「流れ園悟」の価値を一層高めた。


茶道具には様々なジャンルがあるが、便宜上のものに過ぎない。井戸茶碗は高麗茶碗の最高峰で、「一井戸 二楽 三唐津」と呼ばれるが、朝鮮では日常雑器に分類されるものであった。


桃山時代にはルソンの壺が茶器として豊臣秀吉はじめ諸大名に重宝された。これは現地では便器として使われたものであり、本来のジャンルは便器になる。出羽米沢藩の重臣の中条至資には、古雅の風をそなえる菓子器を盃に転用した逸話がある(藤沢周平『漆の実のみのる国 下』文藝春秋、二〇〇〇年、二五七頁)。


ジャンルを超えた利用法をすることが創意であり、イノベーションである。各ジャンルの物を一通り揃えなければ茶会ができないものではない。それは先人の創意工夫に対する侮辱である。ジャンルに拘泥する主張は茶人らしからぬものである。茶道具の収集はコレクションではない。その価値を理解しているかどうかが問題である。ジャンル満遍なく集めればいいというものではない。


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