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林田藩  作者: 林田力
建部寿徳
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小幡城

「家康め! 小賢しい真似をしよるわ」

白山林の戦いの敗北を知った秀吉は怒り狂った。

「もうよい!ワシ自ら出るぞ」

秀吉は自ら陣頭指揮を執って出陣する準備を始めた。

「殿、お待ちください」

寿徳も慌ててそれに従った。

「ならぬ! これは命令じゃ!」

秀吉の怒声に、寿徳の顔色が変わった。

「何故某が同行していけないのです!? 某は家臣ですよ!」

「だから何だというのだ?」

「主君の身辺を守ることが家臣の務めでしょう!」

「貴様のような小物を連れて行ってなんになる?」

「……っ!!」

寿徳は言葉を失った。

「大方、わしの後を追って自分も手柄を立てようなどと考えているのではないか?」

「……」

「違うとは言わせぬぞ」

「……違いません」

「ふん、やはり思った通りではないか」

「しかし、それでも某は行きたいのです!」

「駄目なものは駄目だ」

「どうしてもですか?」

「くどい!」

「……」

「分かったら下がれ。わしはこれから忙しい」

「……分かりました」

寿徳は悔しげに唇を噛んだ。

「ただし、一つだけ条件を付けさせていただきます」

「なんだ?」

「必ず生きて戻られることです」

「そんなことか」

「約束していただけないなら、某はここで切腹します」

「勝手にしろ」

「いいえ、貴方の手で介錯をしてもらいます」

「馬鹿を言うな」

「本気なのです。どうか、お願い致します」

「はぁ……。まったく、仕方のない奴め」

「ありがとうございます」

「これは命令ではないぞ」

「承知しております」

「では、よいな」


秀吉は自ら二万の兵を率いて長久手へ向かった。寿徳も従軍した。ところが、長久手の合戦は午後二時頃に終結していた。家康は四時半頃に北の小幡城へ入っていた。秀吉が小幡城に辿り着いた頃には夜になっていた。

「これから小幡城を攻略する」

「朝までお待ちください」

寿徳の説得で秀吉は攻撃を思いとどまった。


小幡城では家康が家臣から秀吉に夜襲をかけることを提案された。しかし、家康が提案を退け、夜間密かに小幡城を出た。秀吉に気づかれないよう遠回りをして小牧山に帰った。夜が明けて、このことを知った秀吉は、何らなすすべもなく、兵を率いて帰った。


恒興と長可の戦死は秀吉にとって打撃になった。もっとも秀吉方の武将と言っても織田信長の有力家臣であり、秀吉に対して同僚意識を持っていた。特に恒興は織田信長の乳兄弟である。彼らの戦死は秀吉の政権基盤の確立の上ではプラスになった面があるだろう。


長久手の戦いは家康の戦上手を印象付けた。家康が秀吉に戦で負けなかったことは、後の豊臣政権下での家康の地位向上になり、秀吉没後は天下人に押し上げた。


長久手の合戦の後は戦線が膠着した。秀吉は五月一日に軍を退き、家康も七月中頃に兵を引いた。秀吉は戦争で勝てないならば、政治で勝とうと信雄と単独講和を成立させた。これによって家康には戦いを続ける大義名分がなくなり、終戦となった。小牧・長久手の戦いは局地戦ではなく、四国の長宗我部元親や越中の佐々成政と連動した壮大な秀吉包囲網であった。しかし、家康が兵を引いたことで彼らは孤立し、秀吉に敗れ去ることになる。


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