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林田藩  作者: 林田力
建部寿徳
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徳川家康は伊賀越えをしたい

徳川家康は本能寺の変の当時、堺にいた。茶屋四郎次郎から知らせを受けた家康は信長の死の影響を懸念した。家康は家臣達と協議した。

「伊賀越えをし、領地に戻るしかありません」


茶屋四郎次郎は伊賀越えに同行したかは物語によって異なる。

・岩井三四二『あるじは家康』:同行した

・NHK大河ドラマ『どうする家康』:本能寺の変を伝えるだけで同行しなかった


商人は決死の逃避行に足手まといと考えるならば同行させないことになる。しかし、子の時代の商人は武士以上に旅に慣れていた。旅慣れているということは山賊などの対処もできることを意味する。茶屋は上方と三河を何度も往復しており、土地勘もある。金で交渉するためには茶屋の財力が必要である。『どうする家康』の家康一行は、すぐに金がなくなり、飢えていた。


伊賀越えは命がけの難行になった。領地に戻った後は信長の死で動揺している甲斐国と信濃国の平定を進めた。

甲斐は甲州崩れの後に信長の黒母衣衆であった河尻秀隆の領国になっていた。秀隆は信長の命令に従って武田の残党狩りを積極的に行い、甲斐の人々に恨まれていた。本能寺の変後に武田遺臣に襲撃され、三井弥一郎に討ち取られた。信長の命令に従っただけという上意下達の公務員的体質の末路である。


市や茶々、初、江は伊賀上野城で本能寺の変を知った。彼女達は清州城へ避難した。市は単なる美しいだけの姫君ではない。織田信長の政策の理解者でありながら、浅井長政との夫婦愛に生き、長政への愛を抱きながらも秀吉から織田家を守るために勝家と再婚した。そして勝家と一緒に死ぬ時も最後に思い浮かべた人物は長政だったという複雑な心理の持ち主である。


本能寺の変後の光秀は精彩を欠いたとされる。ここには諸説ある。

第一に信長に働かされ過ぎて過労死寸前だったとする。

第二に光秀は高齢で痴ほう症であったとする(岩井三四二『とまどい本能寺の変』「本能寺の変に黒幕がいたか」、岩井三四二『光秀曜変』)。

第三に信長への思い入れが深かったために討ち果たした後は脱力して動きが鈍くなったとする。元々は信長の天下布武の理想に共鳴して家臣になったが、それが失望に変わって謀反を起こした。

第四に画期的な斬新な政権構想の具体化に力を注いでいたとする。軍事面の動きが鈍くてもやむを得ないとなる。何より安土城をあっさりと掌握できたことが光秀の支配力の強さを示している。


光秀は革新的な政権構想を打ち出した。民が村の代表者を出し、どんどん上位に代表を出していくボトムアップの政治を目指した。民主主義である。日本の民主主義は皆の決めたことに従うという上から下の発想が強い。明智光秀のボトムアップの思想は日本で最も欠けているものである。このボトムアップの思想は、トップダウンの指導者であった信長を倒すことと一貫する。


光秀は与力大名の細川藤孝(幽斎)を信頼し、新たな政権への参画を期待していた。しかし、藤孝は光秀に同調しなかった。信長への忠義立てや光秀の滅亡を予想していたためという俗人的な理由だけで得なく、光秀の斬新な構想を恐れたためであった。無理もない話である。


光秀の娘の玉は藤孝の息子の忠興に嫁いでいた。忠興は玉を幽閉する。これには以下の解釈がある。

第一に世間体を優先した行動とする。

第二に離縁ではなく、ほとぼりが冷めるまでの幽閉にとどめたことを忠興の情愛の深さとする。


光秀は自己の政権構想を朝廷に認めさせることに成功した。光秀は「人心惑乱す。よって京・堺を焼き払うべし」と脅したとする。京都にいる天皇と公家衆を人質に取って、朝廷の権威を利用しようとしたとされる。しかし、実際にはそのような事実はない。


本能寺の変後の光秀は朝廷工作に時間を費やし、軍事的な対応が遅れたことが敗北につながった。しかし、秀吉の大返しがあり得ないものであって、織田家の武将達は身動きがとれない状況であった。光秀が動く必要はなかったと言うべきだろう。


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