上田衆
「上田衆は上杉家を乗っ取るつもりですか」
景虎は上杉家を二分する争いを起こす気はなかったが、上田衆が上杉家を乗っ取ろうと考えているなら話は別である。景虎は上田衆が上杉家を乗っ取った場合のことを想像しただけで寒気がした。上杉家は分裂してしまうだろう。そうなれば上杉家が弱体化するのは間違いない。
「まさか……、そのようなことは考えておりませんよ」
兼続は笑みを浮かべながら否定した。景勝が上杉家を乗っ取ろうと考えているわけではないと知って安心したが、同時に景虎に対する警戒心が強まった。
「ところで、景勝殿は上杉家をどのようにしたいと思っておいでなのですか」
景虎は質問した。景勝は少し考えてから答えた。
「上杉家を存続させ、関東と東北の安定のために尽くしていきたいと考えております」
「景勝殿、あなたは上杉家の当主に相応しくない。上杉家を潰したくなければ、さあ、早く家督を譲りなさい!」
景虎は景勝に詰め寄った。景勝は一歩も引かなかった。
「私は上杉家の当主にふさわしくないのでしょうか? ならば、私よりも上杉家にふさわしければ、上杉家の当主になられてもよいのではないのですか? そうすれば、上杉家をつぶすことにはならないでしょう」
景勝は景虎の言い分を逆手にとることにした。
「な、何を言っているのですか」
景虎は遠慮した。
「では、私が上杉家を継ぐのはどうですか?」
景勝はそう言ってみた。すると、景虎派の諸将達の顔色が変わった。景虎派の武将達が景勝を睨んだ。
「御屋形様の後継ぎを決める権限は、御屋形様に忠誠を誓う者にあるのですぞ」
景虎はきっぱりと言った。謙信が後継者を定めていない以上、後継者を選ぶことができるのは謙信に忠誠を誓っていた者達だけである。それ以外の者が後継者を選んでも問題が生じるだけであろう。上田衆が上杉家を乗っ取ろうとしているという噂を聞いたことがある。しかし、それは噂にすぎない。景虎は謙信の後継ぎを決める権利があるという信念を持っていた。
「しかし、謙信公が後継者を決めなかった以上、後継者を選ぶ資格を持つ者はおりません」
景勝が反論する。景虎は黙ってしまった。
「景虎殿、あなたは上杉家を分裂させたいのか」
景勝は景虎を問い詰めた。景虎が上杉家を分裂させようと企んでいるなら、景虎は謙信から受け継いだものをすべて失ってしまうことになる。
「いいえ、そのようなことはありません」
景虎は否定した。景虎が上杉家を分裂させようとする意図はない。ただ、謙信が後継者を決めておかなかったことが悔やまれる。謙信が後継者を決めておけば、謙信が亡くなってから後継者争いが起きることはなかった。景虎は上杉家を存続させるためには、上杉家の当主になる必要がある。景勝に上杉家を乗っ取られるわけにはいかない。景虎は上杉家を存続させる義務が自分にあると考えていた。
「景虎殿、あなたは上杉家を分裂させたいのですか」
兼続が再び尋ねた。景虎は上杉家の分裂を望んではいない。そのためには、景勝を説得しなければならない。
「い、いや……、そんなつもりは……」
景虎は狼惑した。景虎は上杉家を分裂させることなど望んでいない。
「景虎殿、あなたは上杉家の当主に相応しくない。上杉家を潰す気ですか」
景勝はそう言って詰め寄った。景虎は一歩も引かなかった。上杉家の当主の座は譲れない。景虎はそう思っていた。
「御屋形様の後継者を決める権限は、御屋形様に忠誠を誓う者にあるのですぞ」
「では、私にもその権限があるということですね」
景勝はそう言った。景虎は言葉を失った。
「景虎殿、あなたには上杉家を分裂させようとした罪があります。私は上杉家を継ぐために、あなたを処罰しなければなりませんね」
景勝は厳しい表情を浮かべ、景虎に近付いた。景虎は後退りした。景勝は景虎を追い詰めようとしている。景虎にはそれが分かった。
「な、何を言われるか。私は上杉家を滅ぼすことなど考えてはおりませぬぞ!」
景虎は狼惑した。景虎は上杉家を分裂させようとなどしていない。それなのに、なぜ景勝は景虎を罰しようとするのだろうか?
「御屋形様は、上杉家の当主に相応しい者を後継者に選べとおっしゃいました。私はその通りにしているだけでございます」
景虎はそう主張した。




