表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
林田藩  作者: 林田力
番外:御館の乱
139/142

春日山城占拠

御館の乱は景勝側に正義がある訳ではない。権力奪取のための戦いであった。家督争いは派閥争いであり、それぞれの派の利益を追求しているに過ぎない。後継者争いを契機に家臣団が分裂したというよりも、家臣団が分裂して後継者争いが起きた。これが上杉家の没落の原因となった。


嘘の遺言を出しても内乱は防げず、景虎も妻も子どもも全員死亡という凄惨な結果になった。上杉家の国力を損なった御館の乱であるが、主君の主君である上杉家全体よりも自らの上田衆と直接の主君である景勝の立場を優先させることは戦国時代の価値観に合致する。


御館の乱は日本人の汚さや身勝手さを体現していた。景勝と景虎は同じ上杉謙信の養子として相手を信じたいという思いがある。しかし、家臣達は互いに相手が謙信の後継者であることを否定するような言動を繰り返した。各々の家臣の勝手な行動が相手の不信感を高め、景勝派と景虎派は、抜き差しならない関係になってしまう。


景勝も景虎も謙信の養子として恥ずかしくない生き方をしようとする思いを受け止めてくれる家臣に恵まれておらず、家臣達は自派の伸張しか念頭にない。景勝派の優勢で展開するが、景勝派に正義があるわけではない。景勝派は謙信の遺言を捏造した上に武力で春日山城本丸を占拠しており、御館の乱は景勝を主君にするための上田衆によるクーデターにほかならない。


景勝派と景虎派の相違は正義ではなく、覚悟の差である。景虎派の家臣・遠山康光は腹黒さを出しているが、結果面では景勝派の後手に回っている。これに対して、兼続の父・樋口惣右衛門は景勝の意に反しても本丸の占拠を強行する。康光も惣右衛門も自派の正義を貫くという点で一貫している。


これに対して、煮え切らないのは兼続である。自らの言葉が景虎の自尊心を傷つけ、対立を深める一因になった。また、父の指示に従って本丸を占拠しており、景虎派との対立を決定的にしている。それにもかかわらず、「これ以上、春日山を血で汚したくない」と歯の浮くような綺麗事を言う。


一方的に相手を攻撃した以上、相手が反撃してくるのは当然である。しかし、兼続は相手に殴りかかったにもかかわらず、自分が殴られる覚悟はできていない。このような病的な自己中心性は、むしろ現代の日本人に多く感じてしまう。


兼続のカッコ悪さは戦い方にも表れている。本丸の占拠では景虎の兵と戦闘になる。上田衆は一対一では景虎の家臣・刈安兵庫に圧倒されたが、集団で相手の体を抑えて崖から突き落としてしまう。一人では何もできないのに集団になるとホームレス襲撃のような陰惨な暴力事件を起こす現代日本の社会病理を連想させる。


兼続は自己中心的である。謙信の遺言が偽りであることを知っていながら、あくまで偽りの遺言を根拠として景虎には景勝への服従を求め、景勝には家督相続の正当性を主張する。謙信が草葉の陰で悲しむとしたら、遺言を捏造してまで家督を継ごうとする景勝派の浅ましさである。


封建社会の武士にとって忠義の対象は直接の主君であって、主君の主君は主君ではなかった。この価値観に従えば上田衆にとって忠義の対象は景勝一人であり、越後上杉家が分裂しようと国力が消耗しようと関係ないことになる。それ故、上田衆が景虎を排除してでも上田長尾家の当主である景勝に家督を継がせようとすること自体は戦国時代の現実を追求したものである。それが彼らにとっての義になる。


もし、兼続が上田衆としての立場を徹底するならば、筋は通っている。ところが、兼続は戦争の原因となるような言動をしておきながら、内紛に心を痛めるという「いい人」を演じている。上田衆によるクーデターを進めた兼続がソフトランディングを希求すること自体がおこがましい。


兼続には自国がアジアを侵略していたにもかかわらず、それを批判する国際社会の圧力をABCD包囲網と呼んで自国が攻撃されているかのように被害妄想を抱き、十五年戦争を自衛のための戦争と正当化した醜い日本人を連想させる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ