吉田松陰
大高兄弟は萩で吉田松陰と会談した。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました」
「はい、お元気そうですね」
「ああ、なんとか生きているよ」
「先生のご活躍ぶりは、京まで聞こえておりますぞ!」
「それはどうも……」
「では、早速ですが本題に入りましょうか?」
「うむ、頼むぞ」
「はい。まず、薩摩の方々にはご苦労様と言いたい所なのですが、残念ながら薩摩藩にはまだ何もしてあげられません」
「え? 何故ですか?」
「藩主が幕府寄りの立場でありまして、長州藩とは敵対関係にあります。つまり、現状のままだと薩摩を助ける事は出来ません」
「そんな……」
「そこで薩摩藩の味方である事を内外に示す必要があります。具体的には琉球と交易をする事で利益を得て、その利益の一部を薩摩藩へ上納するのです」
「なるほど! 確かにそれなら薩摩を助けられる!」
「そこで貴方方にお願いがあるのです」
「何でしょうか?」
「薩摩藩の家老を説得して欲しいのです」
「説得……ですか?なんと……家老の説得など、某に出来ましょうか?
「無理でしょうか?」
「はい……そのようなことが本当に可能なのですか?」
「可能かどうかはわかりませぬ。しかし、他に方法はないと思われます」
「どうしました? 何か問題でもありましたかね?」
「いえ、そういう訳ではありませんが……」
「ならば宜しいではないですか。別に悪い話でもないと思いますけどねぇ」
「ふーむ……。分かりました。やってみるとしましょう」
果たして、うまくいくかどうか分からないが、何もせずに諦めてしまうよりはいいだろう。それにしても、あの薩摩隼人をどうやって説得するかが問題である。
「薩摩を助けた暁には、私から相応のお礼を差し上げようと思っています」
「お礼……それは一体何でしょうか?」
「吉田家伝来の名刀や鎧兜など、価値のある品物をいくつか差し上げるつもりです」
「なっ!?? そ、そのような物まで頂けるのですか!??」
「はい。但し、あくまでも私が個人的に行う事であって、長州藩として動くものでは一切ありません」
「…………」
「どうされましたか? もしかして、この話はあまり乗り気ではありませんか?」
「いえ、とんでもない! ただ、あまりにも良い話が過ぎると思っただけでございまする」
「そうですね。正直申し上げて、このような美味しい話を安易に引き受けるべきではないでしょうね。ですが、先程も言った通りこれはあくまで個人的な行いですし、それに薩摩藩にとって悪い話ではないようにするつもりですよ」
「分かり申した。そこまで仰って下さっている以上、某もこの話は受けさせていただきとう存じます」
「ところで、他の藩にも協力を要請しているとか聞き及んでおりますが?」
「はい、土佐や肥後などにも要請しております」
「ふーん、それで成果はあるんですか?」
「今のところ芳しくないというのが正直なところです。やはり簡単にはいかないものですよ」
「そうですか……。しかし、薩摩を助けないと幕府への忠義に反する事になるんじゃないですか?」
「そこは大丈夫です。あくまでも表向きは幕府の為になる事をしていますから」
「成程。それなら安心ですね」
「それで、いつ頃出発できるでしょうか?」
「はい。今すぐにでも」
「そ、そんなに早いのですか?」
「はっ。旅支度はすでに整っておりますゆえ」
「かたじけない!」
「ならば、早速出立するとしますか」
「かしこまりました」




