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林田藩  作者: 林田力
林田藩
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明治時代

林田藩は新政府から慶応四年(一八六八年)一月一五日、華頂宮博経親王の警備を命じられた。博経親王は伏見宮邦家親王第十二王子であるが、万延元年(一八六〇年)八月に孝明天皇の猶子となり、同年一一月に親王宣下を受けた。


「なるほど。話は分かった。だが、なぜわしらに頼む? 他にもおることであろう?」

「はい。確かに他の大名家にも頼んでみようかと思っています。ただ、どこの家が一番可能性が高いかを考えてみた時に、やはり一番可能性があるのは、この建部家でした」

「ふむ。そう思うた理由を述べてみるがよい」

「建部様は西国の大名家と繋がりが深いということです。もちろん、他の大名家から支援を受けることもできるでしょうが、それでも多くの情報を得られやすいのではないかと考えた次第でございます」


新政府は鳥羽伏見の戦いを幕府軍として戦った姫路藩を朝敵とし、林田藩にも姫路城攻略を命じた。姫路城は元々、林田藩の宗家ともいうべき池田家の城であった。その城を攻撃する立場になるとは林田藩にとって不思議な感がある。姫路城接収の主力は備前藩池田家である。池田家の幕下で戦うという建部家の伝統は幕末まで貫徹された。


姫路藩主の酒井忠惇は老中を務め、将軍徳川慶喜に従って大阪城に入った。姫路藩は井伊直弼の暗殺で凋落した彦根藩に代わって幕府を支えていた。慶喜は鳥羽伏見の敗戦後の一月六日に大阪城を退去し、大坂湾に停泊中の幕府軍艦開陽丸で江戸に退却した。そこに酒井忠惇も同行した。


藩主不在の姫路藩では官軍への反発があり、徹底抗戦の意見もあった。

「なぜ錦の御旗が我らを襲うのだ?」

「朝廷は賊軍と手を結んだのか?」

「それとも朝廷そのものが賊となったのか?」

「答えられぬとはどういうことだ?」

「わしらは勅命を奉じた幕府の兵であるぞ」

幕府のために代々働いてきた林田藩が姫路藩の家臣と調整し、姫路城は一月一七日に無血開城された。


林田藩では執政会議が開かれた。この会議には藩士だけでなく、百姓や町人も参加することが許された。林田藩の財政は逼迫していた。藩札の発行という安直な手法で凌いでいたものの、藩札の価値も下落していった。また、農民たちは年貢米を納めることができなかった。そのため、藩内では一揆が頻発していた。

「殿、このままでは藩は立ち行かなくなります」

「分かっておるわ。何か手立てを考えねばならぬ。どうすればよい?」

家老の渡辺力右衛門は藩札に裏書きをした。

「これは何だ?」

「裏書手形でございます」

裏書手形とは、額面通りの金額を支払うという証文のことである。

「なるほどな。これなら文句も出まい」

しかし、実際には通用しない。あくまでも名目上のものに過ぎなかった。藩札の価値は低下を続け、藩内の経済状況はさらに悪化した。

「困ったことになったのう。これ以上、藩札を発行することはできぬ」

明治政府は明治元年(一八六八年)に銀遣いを禁止する。林田藩では両・分・朱を額面とした金札を発行した。


林田藩は一八七一年(明治四年)四月の廃藩置県で林田県となる。廃藩置県に際しては想定された武力抵抗は生じなかった。既に江戸時代から藩の中には経営がたちいかなくなり、幕府に領地返上を願い出ることを検討するところも存在していた。破産を回避しようと借金を続ける経営者や一度立てた計画に固執する公務員より健全である。廃藩置県が比較的すんなり行われたが、藩運営の行き詰まりが背景にあった。


林田県は藩を県に置き換えただけであった。この時点で三府三〇二県もあった。林田県は一一月二日に姫路県に統合された。姫路県は播磨国一円を領域とした。一一月九日に播磨県に改称される。一八七六年(明治九年)に兵庫県に合併し、兵庫県揖保郡林田村となる。


林田村と伊勢村は一九五五年(昭和三〇年)三月二五日に合併して林田町になる。林田町は一九六七年(昭和四二年)三月五日に姫路市に編入されて自治体としては消滅した。その後も姫路市林田町として地名は残っている。


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