質素倹約
武士の収入は年貢米が基本であるが、商品経済の進展により、支出が増える。このため、幕政改革でも藩政改革でも質素倹約が改革の一丁目一番地になることは当然である。武士が陣屋から退勤する途中で、酒亭や茶屋に立ち寄るのは品が悪いと禁止することもなされた。飲みニケーションの昭和の日本型組織よりも先進的である。
「お待たせして申し訳ない」
「いえ、こちらこそ突然押しかけまして……」
「よいのだ。それより今日はよく来てくれた」
「はい、ありがとうございます」
「それで、何か聞きたいことがあるとか?」
「はい。実は……」
先ほど奉行所で聞いた質素倹約の話をかいつまんで説明した。
「もしよろしければ、私どもにもぜひ教えていただけないかと思いまして」
「ふむ……」
少し考えてから、言った。
「あいわかった。では、そちたちも共に参ろうではないか」
「えっ!?」
「へ?」
予想外の返答であった。
「あの、よろしいのでしょうか?」
「構わぬよ。それに、わしとしても興味があることだ」
「左様でございましたか……わかり申した。それでは皆々様方、よろしくお願いいたします」
質素倹約を時代に逆行する消極的政策と低く評価する向きもある。しかし、質素倹約には身分や格式で贅沢をする既得権を否定する積極面があった。藩主自ら木綿の服を着るということに意味がある。現代に置き換えれば重役の社用車廃止など健全なコストカットに繋がる。
勿論、自分は贅沢して人々に規制を押し付けるだけの公務員的な質素倹約は有害である。現代でも緊急事態宣言やまん延防止重点措置で飲食店を規制しながら、公務員は宴会している。警視庁尾久警察署では署長は十数人の懇親会参加後に新型コロナウイルスに感染した。
埼玉県警では上尾警察署地域課の二〇代の男性巡査が同僚六人と会食後に新型コロナウイルスに感染した。埼玉県警大宮署のパワハラ警察官は「まん延防止等重点措置」下で会合自粛が求められた二〇二一年五月一二日、さいたま市大宮区の居酒屋に部下の男性警察官を呼び出し、暴行した容疑で書類送検された。
兵庫県警神戸西警察署では居酒屋で歓迎会を開催し、新型コロナウイルス感染症の集団感染が起きた。兵庫県警地域部の四〇代男性警視は二〇二〇年九月と一一月に部下らと五人以上で県内のキャンプ場に泊まりがけで行き、バーベキューをしながら宴会をしていた。
兵庫県警神戸西警察署(神戸市西区)の男性警部補ら複数の署員は二〇二一年七月九日に深夜まで飲食店で飲酒した上、路上でトラブルを起こし一一〇番通報された。神戸市の新型コロナウイルス対策まん延防止等重点措置に違反する。
質素倹約を掲げる藩政改革が抵抗に遭うことがある。抵抗の理由は名門意識である。当家は伝統ある名門名家であり、名門には格式が必要という論理である。例えば米沢藩上杉家は一五万石であるが、上杉景勝時代の一二〇万石の大藩意識が抜けきれなかった。
これも二一世紀の日本に引き寄せることができる。今や日本は世界第二の経済大国でも、アジア唯一の先進国でも、世界唯一の有色人種のサミット参加国でもない。それなのに未だに昭和の感覚を持ち続ける人々も多い。その昭和の感覚がダウンサイジングの障害になっている。




