第5話 健全な体には美味しい血が宿るそうです
「黒い薬を教えていただいたお礼として、聖水を売る権利を差し上げましょう」
「売るー?」
「えぇ。健康をもたらす物には需要がありますから。それが甘い水となればなおのこと」
「花を乗っけただけだろ。そんな誰でもできることで売れる訳ない」
「そこに気付くとは賢いですね」
鼻で笑ったにも拘らずいきなり褒められ、ガトーは落ち着きなく肩を揺らす。
「しかし! 聖水はこのアルル様の祝福を宿した、『トランペットフラワー』でしか手にすることはできません! どの花でもいい訳ではないのです!!」
ゼノは星型の黄色い花ことトランペットフラワーを掲げ、高らかに演説をする。アルルと出会った花畑にあった、あの花だ。
異世界にも紅茶文化はあって、乾燥した花や葉でお茶を楽しむ人間は一定数存在する。このトランペットフラワーを煎じて飲む者も、既にいることだろう。
だがそんなこと、ゼノにとってはどうでもいい。
ゼノの目的は無垢で無知な子供達に、アルルと関連付けた花には特別性がある、と刷り込むことなのだから。
「花が咲かない時期は葉でもいいでしょう。そして健康さえ手に入れてしまえば苦しみを跳ね除けられ、働き口も増やせる。いい事づくめです」
そこでゼノはずいと、子供達の前に小袋を突き出す。
「この中にはトランペットフラワーの種が入っています。森に行けば採取できますが、幼い貴方達が向かうには危険ですからね。町中で育てる方がよいでしょう」
トランペットフラワーは肥料を与えなくとも、水さえ忘れなければすくすくと育ってくれる。子供でも育てやすい植物だ。
それどころか育てる必要さえない。元々、森で自生できるほど力強いのだから。
それなのに町で自生していないのは、とある理由が関係しているのだが──ゼノはそれを伏せたまま話を続ける。
「これを貴方方に授けます……。と、言いたいところですが、一つ条件があります」
その言葉に、ガトーが身構えた。無理難題を押し付けてくると思ったのだろう。
当たらずも遠からず、と心の中で呟きつつ、ゼノは人差し指を立て条件を述べる。
「少しで構いません。血を分けてください」
炊き出しも聖水も、全てはアルルへ捧げる血を得る為の施し。ここを受け入れて貰わなくては始まらない。
だが子供達はなかなか頷かなかった。体に傷を付けるのは憚られるのだろう。
(前世では『売血』が行われていた歴史があるので、いけるかと思いましたが……。日本と同じように、金銭を差し出さなければいけませんかね? しかしそれでは聖水のありがたみが減る。どう説得しましょうか)
「別にくれないならいいよ。君達、不味そうだし」
「っ、不味いって何だよ……!?」
「弱そうな奴の血は決まって不味いんだ。君達もぜぇーったい不味い」
「勝手に決め付けるなよっ!」
思考を巡らせているゼノをよそに、アルルは子供達を小馬鹿にし、それに対しガトーは顔を真っ赤にして怒った。
怒りのまま、彼はポケットから小さなナイフを取り出すと指先に傷を付ける。
ぷくりと、赤い血が浮き出た。
「ほら!」
そしてアルルの前に突き出したガトーの指を、彼女は一瞥した後、髪の蔦を伸ばして拭い取り、口元まで運ぶ。
そのまま血が付着した蔦に口を付けると、
「やっぱ不味い」
べ、と舌を出して不満を述べた。
「~っ!」
「何その顔。悔しかったら強くなればいいじゃん」
「言われずとも~っ!」
策を練るまでもなくあっさりと吸血を叶えてしまったアルルに、ゼノは口を開けてぽかんとしてしまう。
(……飾り気のないアルル様の言葉の方が、ガトーに響いていますね)
もしかしたらゼノがお膳立てなどしなくとも、アルルは神として讃えられるポテンシャルを元々備えているのかもしれない。
やはり花畑で彼女と出会えたのは運命だったのだと、ゼノは一人勝手に感嘆した。
(流石はアルル様、素晴らしい……!)




