第2話 アルル様は町が新鮮なようです
まずは冒険者ギルドを訪れ、前の村でサボっていた『銀の刃』からの脱退報告や、アルラウネ加入など、冒険者登録証の内容変更をした。
次いで食事を済ませようと向かった大通りは、活気に満ち溢れていた。
中央の広場では市場が開かれ、大道芸や吟遊詩人が賑やかに彩る。舞台劇も行っているようで、チケットを売り込む劇団員の声もどこかから聞こえてきた。
「わぁ……」
森の奥でひっそりと獲物を待つアルルにとって、人々の営みは酷く新鮮で、あちこち目移りしてしまう。
ゼノは対照的に、淡々と食材を買い込んだり道具を買い込んだりしているが。
「ゼノ、あれなーに?」
「あれはアクセサリー屋ですね。加護が付与されたものもあります」
「丸いガラス持って座っている人は?」
「占い師ですね」
「あっ! なんか肉の焼ける匂いがするっ!」
「焼き鳥ですね。食べてみますか?」
アルルの疑問に一つずつ答えた後。ゼノはアルルが最も強く関心を持った屋台の前で足を止め、鳥肉の串焼きを一本購入した。
そしてアルルの髪を形成している蔦に持たせる。
「お熱いのでお気を付けて」
「なんか白いつぶつぶが乗っかってる?」
「塩ですね。海で採れるのですよ」
「うみ? ふーん」
海が何なのかよくわからないまま、アルルは串焼きを横向きに持つと、湯気を立てている鶏肉の端っこをぱくりと口に含んでみる。脂が乗った肉の味に、ピリリとしたアクセントとなった塩味。どれも森では味わったことのない食感に旨みだ。
アルルはぱっと金色の目を輝かせる。
「ゼノ! これ美味しーねっ!」
「お気に召していただき何よりです」
「もっと食べたいっ!」
「ははっ! 嬢ちゃんいい食いっぷりだねぇ! よし、一本おまけしてやるっ!」
可愛らしい少女(に見える)が絶賛してくれたのに気をよくした店主は、焼き鳥をもう一本アルルに渡す。ゼノは礼を述べ店主に頭をさげたあと、アルルがゆっくり食事ができるようにとベンチのある広場に向かおうと足を進める。
「アルル様。食べ終えたら串は私に渡してください」
「? ゼノも食べたかったの?」
「いいえ。ただ串はその辺に捨てられませんし、使い道もそれなりに……」
「しょーがないなぁ。はい、特別にあげるっ」
ゼノが強請ったものと勘違いしたアルルは、おまけとして貰った焼き鳥をゼノへ渡す。といっても背負子に座り後ろを向いたまま、髪の蔦でゼノの前に持っていっただけな為、蔦は妙な方向に伸びていた。
ゼノは苦笑しつつ手を伸ばして焼き鳥を受け取ろうとした。
その時、屋台脇から駆け出してきた小さな人影がその焼き鳥を強奪した。
「あっ!?」
「へへっ。やりぃっ」
突然のことにアルルが驚愕している間にも人影──ボロを着た十二歳ほどの少年は人混みをかき分け、するりと細い路地の奥に姿を消してしまう。
「こらーっ! 返せーっ!」
怒りながらアルルはもぞりと動き、くるりと向きを変え背負子の座面に膝を立てると、ゼノの肩越しにひょっこりと顔を覗かせる。
「ゼノっ、追っかけるっ!」
「はい、アルル様っ!」
そしてゼノに追跡を命じ、ゼノはそれに応え駆け出した。
細い路地の奥は、明るく活気溢れる大通りとは対照的に、暗澹たる空気と静寂に包まれていた。
進めば進むほど道はでこぼこと穴だらけになっていき、ゴミも散乱し足場は悪くなる一方。
しかし冒険者として道なき道を歩くことに慣れているゼノは、足を取られることもなく難なく突き進んでいく。
とは言えアルルを背負った状態で、身軽で地の利もあるだろう少年と距離を詰めるのは難しい──ことはゼノ自身が一番理解しているので、直線上の道に入ったところを狙い、ウエストポーチからパチンコと弾を取り出した。
「喰らいなさいっ!」
そしてわざわざ腹の底から叫び、パチンコを構えて弾を撃つ。
ただならぬ気配を感じた少年は振り返り、迫り来る弾を凝視した。
が、弾は少年が避けるまでもなく頭上を通り過ぎてしまう。
「あ? ははっ! 外すとかだっせ……」
パァンッ!
直後、少年のすぐ後ろの壁に直撃した弾は破裂し、黄色い液体が飛散した。
「うわぁっ!? 何だこれっ!!」
その液体──果汁と果肉を頭から浴びてしまった少年は仰天しながら、ふらつく足で路地の奥へ消えてしまう。
だが姿がなくとも、彼の歩いた軌跡はあちこちに付着した黄色が教えてくれた。
あれは門番に見せた果実と同じ実、キマトである。ただしあちらは小ぶりなミニキマト。今回使ったのは、手のひら大まで育った完熟の大玉キマトだ。
熟しきった大玉キマトは強い衝撃を受けると弾ける。ゼノはそれを利用して、即席のペイント弾に仕立てたのだった。
「成功ですね」
「ふっふっふっ。逃がさないぞ~っ!」
含み笑いをし意気込むアルルと共に路地を更に進み、ゼノは空き家が目立つ町の外れに足を運ぶ。
やがて二人は廃墟となった教会前に辿り着いた。ペイントの追跡はそこで途切れている。
「あれ? どこ行った~っ!」
頬を膨らませ、蔦でべしべしと地面を叩くアルル。
ゼノは冷静に周囲を見回し、使い込まれた井戸や、道端に積まれたゴミ山、その付近についた沢山の小さな足跡を観察する。
(これは、幸先がいい)
それらを見たゼノはにやりと、不敵に笑った。
それからゼノは一言断りを入れてからアルルを降ろし、椅子代わりの瓦礫に座らせる。
身軽になったゼノは廃教会前の井戸から水を汲み、鍋へ注ぐ。そして森で採取した黄色い花の花弁を一枚入れると、鍋に火をかけた。
やがて湯気と共に甘い香りが辺りに漂う。するとその匂いを気にして、廃教会の中からストリートチルドレンがちらほらと顔を出した。
その子供達の中に、先程の少年がいた。
「あっ! 見っけた!」
「げっ! さっきの! ここまで追ってきたのかよ!?」
アルルと目があった少年はすかさず逃げようとしたが、素早く伸ばされたアルルの蔦に足首を掴まれ、べちりと石畳の上に体を打ち付けてしまう。
「捕まえた~っ!」
「クソッ! 言っとくけど焼き鳥はもうねぇからな!? 盗まれる隙を見せたお前が悪いんだっ!」
「何を生意気なぁ~っ!」
「お二人とも、落ち着いてください。ひとまずパンでも食べませんか?」
「……へ?」
「パン?」




