第1話 嘘はついていません、本当のことを伝えていないだけで
「……と言う流れを想定しています。ご理解頂けたでしょうか?」
時は進み、昼頃。
ゼノは森で作成したお手製背負子でアルルを背負い、町へ続く小道を歩いていた。
植物型モンスターであるアルルは歩行があまり得意ではないので、ゼノが運ぶことにしたのだ。背負われたアルルは伸びをしたり、緑色の髪を指でいじったりと好きに過ごしている。
「何でもいいけど、もし上手くいかなかったら君も町人も食べちゃうからね?」
「ありがたき幸せ……!」
「…………」
話が通じない。アルルはまともに会話をすることを諦めた。
時たますれ違う旅人に奇異な目で見られつつ、順当に辿り着いた目的地、パララ町。
郊外の町ながらなかなか栄えたそこには立派な門が備えられていて、門番が一人一人、訪問者を検問している。
「おい、そこのお前。町にモンスターを連れ込む気か?」
ゼノは門番に冒険者登録証を提示したものの、それはアルルの身元を保証するものではない為に止められてしまう。
「テイマーならまだしも、低ランク冒険者の連れたモンスターなんて信用できん。それを捨てる気がないなら訪問は諦めるんだな」
「捨て……っ!?」
「何なら俺がここで討伐してやろうか?」
「きさ、……っ!」
不敬極まりない門番の物言いに、ゼノは思わず怒鳴りたくなる。
だがこれは想定内の出来事だ。アルルの為にも感情的になってはいけない、と彼は深呼吸をして自身を落ち着かせると、朗らかな笑みを意識して門番と向き合った。
「アルル様……。いえ、こちらのアルラウネは無害です。それどころか人を救ってくださる尊きお方」
「はぁ? どうしたんだ、頭でも打ったか? それとも魅了にやられたか?」
「どれも違います。私は私の意思でアルル様を敬慕しているのです。貴方にもこれで、伝わるといいのですが」
そう言ってゼノが門番に差し出したのは、手の平サイズの小袋だ。
受け取った門番が不思議そうに中を確認してみると、小さな黄色い果実が複数入っているのがわかる。瞬間、門番は頬を赤らめ反射的に力を込めてしまい、果肉を一つ潰してしまった。
黄色い果汁が、小袋と門番の手を黄色く染める。
「アルル様は自身の身を削って、人へ親愛を示してくださったのです。認めていただけましたでしょうか?」
門番の反応を見たゼノはにっこりと笑いかけると、ダメ押しとばかりに二人分の通行料を払う。
「あ、あぁ。しかしアルラウネが町へ入ったことは上に報告させて貰うぞ? それでもいいんなら……」
「構いません。寧ろ是非、お願いしたい」
町に入ったところで後で追い出されるかもしれないぞ、と脅しても屈しない姿を見て、門番は言うべきことがなくなってしまい、訪問を許可してくれた。
「……ねぇ、ゼノ。さっき渡してた果実、森でテキトーに摘んでた奴だよね? なんであの人間、喜んでたの?」
門を潜り終えた後。背中で揺られながら、アルルが先程のやり取りを振り返る。
するとゼノは小声でこう言った。
「あぁ。彼はどうもアルル様……アルラウネの果実だと勘違いしたようですね」
「? 勘違いすると何なの?」
「アルラウネの果実は惚れ薬になる、と噂されているのですよ」
「ほ、惚れ薬?」
「または媚薬ですね」
「びやく……っ!」
小声とはいえ明け透けなゼノに、開いた口が塞がらないアルル。
そのままゼノは「門番には意中の人でもいたんでしょうねぇ」などと、呑気に予想を立てている。
「ボクの果実にそんな効果はないし、そもそもアレ森のやつだし、怒られない……?」
「私は一度も何の実なのか話していないのに? アレはアルル様のテリトリー内にあった『親愛の証』、充分に尊いでしょう?」
「詐欺だ、詐欺師だぁ……」
「ははは人聞きの悪い」
背中から飛んで来る非難を笑って流しつつ、ゼノはパララ町を歩く。




