第4話 四天王への道はアルル教に続いています
「なっ! 人間を襲うのが魔王軍の仕事で、魔物の本分じゃんっ! もしかして同胞を裏切るのが嫌なの? これだから人間は……っ!」
「違います。失礼ですがアルル様、一度に何人の人間を相手にできますか? それから、相手にできる冒険者のランクも把握しておきたいです」
冒険者ギルドに所属する冒険者は、功績や武功によってAからFのランク分けがされている。ランクによっておおよその強さを伝えられ、受けられる依頼が決まるのである。
ちなみに勇者も時たま冒険者として路銀を稼いでおり、彼のランクはAよりも上、規格外に区分されるSだ。
「これはアルル様の身の安全を確保するのに大切なこと。可能ならば正直に話して頂きたいのですが……」
「そ、そんなことを言われても、人間の物差しなんて知らないよ」
「では人数だけでも教えて頂きたい」
「え、えっと……。……一度には、五人が限界かな」
アルルは見栄を張った。本当は一度に三人の人間に襲われたら対処が難しくなり、逃げることも多々ある。
しかしゼノはアルルの申告を素直に信じ、その上でこう言った。
「成る程。ではなおのこと、人間を襲うのは愚行かと」
「ちょっと! 愚行ってなんだよっ!」
魅了したと思った人間の悪口に憤るアルル。
ゼノは落ち着いてくださいと、水筒の水を彼女に渡して話を続けた。
「順に説明しましょう。地図に載らないような小さな集落でも、二十人は住民がいると考えた方がいいです。夜間、家に忍び込み一人一人襲ったとして、誰一人取り逃がさずに殺せますか?」
「誰一人も、っていうのは無理かもだけど、別に一人二人逃げても問題ないじゃん?」
「逃げた人間は何をすると思います?」
問われたアルルは想像する。ご飯にしようと襲った人間は大抵「助けて~! 誰か助けて~!」と叫んでいた。
死に物狂いで逃げられた際は、群れとなって戻って来られた時もある。その時は這う這うの体で逃走した記憶があった。
森の中というアルルのテリトリー故に逃げ切れたが、もしも街の中という人間のテリトリーで徒党を組まれたら?
「誰かに助けを求めて、群れで襲ってくる……?」
「はい。強力なモンスターが出たとなれば、冒険者達が徒党を組んでやってくるでしょうね」
思わず筋骨隆々な存在が迫って来るのを想像してしまい、ぴゃっと縮み上がるアルル。
「そもそも、集落にいるような質素な暮らしをしている栄養価の低い人間を食べても、アルル様の身になりませんよ。もしも人間の食事量が強さに繋がるなら、魔王城にはゴブリンが鎮座していなくてはおかしいです」
「う……」
ゼノの冷静な分析に、アルルは何も言い返せなかった。
人間の被害数ならナンバーワンだろうゴブリン。レベルアップしてゴブリンキングという上位種になる者もいるが、そのゴブリンキングでさえサイクロプスなど元々上位種のモンスターに劣る。
モンスターは勇者や聖女など、一部の魔力が豊富な人間以外は幾ら食べてもさして強くなれないのだ。人間の襲撃を武功にするとしても、都市を落とすレベルにいかなければ魔王の耳には入らない。
つまり幾ら集落を襲っても無駄で不毛。ゼノの言う通りである。
「魔物のレベルアップ現象について整理しますと、魔力の強い物質を体に取り込むことで肉体が強化され、能力も強まる。という認識でよろしいでしょうか?」
「う、うん。強いモンスターの心臓部の魔石を食べられたら一気にレベルアップできるけど、それは現実的じゃないんだよね……」
「そちらは追々考えるとして、アルル様の主食は血液ですよね?」
「? そうだよ?」
アルラウネのアルルは植物系モンスター、肉や骨よりも吸収しやすい血を好む。
ちなみに魔力は血にも含まれているので、吸血だけでもレベルアップは望める。
「わかりました。アルル様の身の安全を確保しつつ、四天王となる方法をお伝えしましょう」
「えっ? 安全に四天王になるだなんて、無理じゃない? 人間か魔物を食べないとだもん」
「できますよ、アルル様」
目を輝かせて期待するアルルに対し、ゼノは朗らかな笑みを浮かべてこう言った。
「貴方を神とする宗教を作ればよいのです」
脳裏に浮かぶのは、画面越しに焦がれた女神。
彼女と重なる容姿を持つアルルは、盛大に戸惑っているが。
「しゅっ、宗教っ!?」
「はい! 名前はシンプルに『アルル教』でよいですかね?」
「アルル教!?」
アルルは想定外の連続で混乱している。
宗教自体は一部のモンスターにも存在し、魔王や邪神を信仰することがある。
しかし上級モンスターでもない者が自ら神となる話など、聞いたことがない。
「アルル様の素晴らしさを人類に流布すれば皆心酔し褒め称え喜びアルル様に危機が迫れば盾となり障害が現れれば剣となり食事を望めば贄となりましょうあぁなんという楽園! 理想郷! 信者に囲まれたアルル様を想像すると今から胸が躍りますね!!」
「ちょ、ちょ、ちょっと! 意味がわかんないんだけど!?」
一人で勝手に盛り上がっているゼノに水筒の水を被せて落ち着かせ、アルルは詳細を乞う。
「すみません、つい興奮してしまい……。私が宗教を作ろうと提案したのは、ただ私がアルル様を崇めたかったという訳ではなくてですね」
(絶対、私欲もあるよね……)
「個は基本的に数の暴力には勝てません。ゴブリンも集団となると脅威です。そこで宗教です! アルル様の手足となる人間を増やし、人間を征服するのです! 食事も摂り易くなり効率的ですし、組織が大きくなれば貴族や聖人といった、魔力の強い人間の血も入手できることでしょう」
「そ、そうなの?」
いいことばかり並べられた気がするが、本当にそう都合よくいくのか、アルルにはいまいちわからない。
「でもゼノ、宗教を作ると邪神教や済世教と対立しない?」
「…………」
「ゼノ?」
「あっ、すみません。初めて名を呼ばれた喜びを噛み締めてしまいました……」
名前を呼んだだけで両手を組み、無言で至福に浸る人間ゼノ。
こいつは本当に利用価値があるのか、アルルは不安に思った。
「しかし無理強いはできません。アルル様にとっては敵である人里に入り浸る必要がありますし、ストレスは避けられないかと」
「べっ、別に人間がどれだけいても怖くないよ! 侮らないでよねっ!」
「あぁっ! 申し訳ございません、アルル様!」
相変わらず見栄を張っているアルルに平謝りし、ゼノは失言を恥じ、失敗を取り返さんとすぐに行動に移した。
「では早速、村で布教活動をいたしましょう!!」




