↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/98

エレハイム 6

夏の日本は人が住んでいい土地ではない。


習近平もこんな土地いらないでしょ。

 「錬金術師としての父の偉業の最たるものは、やはり金を生成する秘薬(エリクシール)を作り出したことデショウ。おかげさまでワタシの実家は、お金にだけは困ることはアリマセンデシタ。金など無限に生み出せたからデス」


 遠い過去を反芻するため、エレハイムは天を見上げた。


 「父は、これまで誰も到達しえなかった錬金術の深淵に、驚くほどの若さと早さで到達シマシタ。聞くところによれば、歳が10になるかならないかの頃だったそうデス。突如、すい星のごとく現れた天才児、当時の周囲の大人たちによる父の持ち上げ方、ことに錬金術界隈がどうであったかは想像に難くないところデショウ。

 しかしそれは、たまたま父の恩寵(オリジン)が錬金術と非常にまれなほどの相関関係にあったため、運よく成せたものデス。父は決して真摯な錬金術の学徒ではありませんデシタ。片手間に適当に、熱意など微塵もないにもかかわらず、錬金術に関するほぼあらゆることが容易に成せてしまう、そういうタチの悪い天才だったのデス。


 どういうことか、おわかりになりマスカ?苦難を乗り越えることでこそ、人は成長しマス。そういう意味で、思いのままとなる錬金術は父の人間性を育む糧とならないどころか、もはや害悪デシタ。父は自己中心的で幼稚な精神性のまま大人になってしまったのデス。気に入らないことがあれば、すぐに癇癪を起す人デシタ。といっても、気に入らないことというのは、必ずしも大それたものではアリマセン。井戸の桶がいつもは右にあるものが左に置いてあったとか、食卓の水差しが自分の手の届く範囲になかったとか、そうしたつまらなく小さなことに、よくもまあ…そこまでと感心したくなるほど、いちいち腹を立て、喚き散らすのデス。それで周りの人間が、どれほど消耗するかなど、気にも留めたりはしないのデス。

 

 娘のワタシから見て、数ある父の欠点の中でも最も大きなものは、『今、己の手の中にあるものに価値を見出せない』というところデシタ。幼稚さゆえ、感受性も育つこともなく、日々の小さな幸せに気がつくことができなかったのデス。


 ハムタロという人、あなたは朝食のパンの焼けるにおいに心が温かくなったことはアリマセンカ?手をかけた作物が実った時や、夜にお風呂に浸かった時はどうデショウ?


 父にはそれらを幸せと思える感性がアリマセンデシタ。こういう人間は必ず不幸になりマス。だって、人の一生から幸せを引いたら、あとにはどうでもいいことか不幸しかのこらないデスカラ。実際、『つまんねぇ人生だ』というのは父の口癖デシタ。どれほど錬金術の才があろうとも、どれほどお金があろうとも、父の心はいつだって空洞だったのデス。


 そうなるとどうなるか、おわかりデスネ?砂漠に際限なく水がしみいるように、父は己の空虚さを満たすため、『もっと、もっと』と際限のない渇望に侵食されていきマシタ。物であったり、地位であったり、名声であったり、形のあるなしに関わらず、あらゆるものを欲したのデス。ですが、それはただ一点、『他人のうらやむもの』であることが必須デシタ。

 幸せを能動的に、主観的に感じる心を持たない父は、手にしたモノの価値を他人の評価にのみ依拠していたのデス。


 そんな父がワタシの母となる女性に目を付けたのは必然だったのデショウ。母は若く、見目麗しい名家の娘でありましたが、実体はかなり傾いた、いわゆる没落貴族デシタ。父にとって母の置かれた苦しい状況は、なんとも都合よく映ったにちがいアリマセン。名家のブランドと、誰もが目を引かれる美しい妻。無限の金にものを言わせた政略結婚で、ふたつを同時に手に入れたのデス。


 ワタシは母のことを思うと、今でも胸が暗澹としマス。実家から売られるような形で、あのような父に嫁がされたのデスカラ。


 しかも、父は手にしたものには価値を見出さない男デス。ワタシが生まれてしばらくする時には、父はすでに母に飽きてイマシタ。我が家に勤める使用人や錬金術の弟子、果ては名前も知らぬ街の者、そうした数々の女性たちと公然と浮名を流し、悪びれもしない父に、母のプライドは大きく傷つけられたことデショウ。

 そんな父にワタシは一度、聞いてみたことがアリマス。「お父さんはお母さんをどれくらい愛してるの?」という、単純な問いデス。断っておきますが、その時のワタシに父を責める意図は欠片もアリマセン。ワタシは3歳か4歳でしたから、男女の倫理や貞操感どころか、物事の善悪すら理解してない年頃の話デス。幼さからくる純粋な興味で聞いてみたダケ。

 ……返ってきたのは、父の鉄拳デシタ。手加減も容赦もない、力いっぱいの握り拳デス。当時のワタシはどうして自分が殴られたのかわけがわかりませんでしたが、自己中心的な父でも浮気はそれなりにうしろめたく、娘に咎められたと思ったのデショウ。


 それでも母は、父にかいがいしく尽くしてイマシタ。もちろん母の実家が父の援助なしでは成り立たないという事情はありましたが、物心のついたワタシが違和感を抱くくらい、どこか異常なほどの献身性で父の世話をあれこれと焼いていたのデス。ワタシの父母の記憶には、父が何かにつけ癇癪を起し、母を怒鳴りつけている場面しかアリマセン。どんな横暴にも黙って耐え続ける母に、ワタシはどうしてもっとビシッと言ってやらないのか常日頃から疑問でしたが、それを聞いても母は困ったように笑うだけデシタ。

 これは想像ですが、おそらく母は、娘のワタシのために必死になって家庭を保とうとしてくれていたのデショウ。家庭が完全に破綻すれば、ワタシは路頭に迷うことになるのデスカラ。


 とはいえ、正確なところはわかりまセン。ワタシが母から本心を聞かせてもらう機会は、訪れなかったからデス。


 ワタシが10代の半ば、例年より多くの雪が降った冬、ついぞ母は、とある使用人の男と逃げマシタ。母がワタシの枕元に残した、たった一枚の書置きの、「ごめんなさい」の筆跡を今でも覚えていマス。その謝罪は、ワタシをこの家にひとり置いていくことなのか、ワタシへ事前に一言も相談してくれなかったことなのか、自分(母)が父と同じ不義理をすることに対してなのか、あるいはそれら全てなのか、本当のところは不明ですが、ワタシの頭をぐるぐると駆け巡りマシタ。そうしてるうちに立ち眩みがしたのデショウカ。気がつくとワタシはベッドに突っ伏し、知らず知らずの内に嗚咽を漏らしながら、深い安堵に包まれてイマシタ。


 ────ああ、よかった。神様、どうか、今度こそ母に幸せが訪れますように。


 誓って言いますが、ワタシに母を責めるつもりなど、わずかほどにもゴザイマセン。なぜなら、当時のワタシはまだ学生でしたが、ワタシ自身、卒業と共にこの家を捨てようと考えていたからデスカラ。ですがその際に気がかりがただ一点、母のことデシタ。母をひとり、父の元に残していくのはどうにも後ろ髪をひかれ、ワタシは計画の実行の最後の決断を下せずにいたのデス。しかしそれを心配する必要はもうアリマセン。約束された未来がパッと開けたようで、ワタシは人生において最も深く多幸感に包まれマシタ。


 一方、父が激怒したことは言うまでもアリマセン。周囲のあらゆる人や物に、あたり散らし、みっともなく喚き続けマシタ。特に繰り返したのは「恩知らずの恥知らずめ」や「誰のおかげで何不自由のない生活ができてたんだ」といったものデショウカ。けれど、母の実家への金銭的な支援が相当する前者はともかく、後者は少々事実と異なりマス。

 父は無限に金を生み出すことができましたが、他者がその恩恵にあずかることを、ひどく嫌う性分デシタ。早い話が、ケチなのデス。我が家には幾人かの使用人がおりましたが、父の身の回りの世話の大部分は母が担ってイマシタ。家事などに人を雇ってカネを払うのはムダだという理屈デス。そんなものは母がやればいい、それが父の考えデシタ。

 しかし、そんな方針に文句ひとつこぼさない献身的な母に、父が何かで報いた記憶は、少なくともワタシにはアリマセン。はっきり言ってしまえば、父にとって母は無料で使える使用人、いえ…使用人以下の存在デシタ。自由になるお金をほとんど持たない母は、普段着などずっと同じものを着まわしてイマシタカラ。


 そのように下に見ていた母に、自分(父)と使用人の男が秤にかけられ、結果、敗北したという事実に相当プライドが傷つけられたのデショウ。父の怒りは収まらず、ふるまいは癇癪と言うには度を越しており、付き合いきれなくなった使用人や弟子たちは、ひとり…またひとりと去っていき、ついに我が家は父とワタシの二人のみとなりマシタ。ワタシが共に去らなかったのは、もちろん、そんな父が憐れだったからなどではなく、学校の卒業まで1年を切っていたからデス。学校を出ないことには、まともな働き口もアリマセンカラ。


 そして以降、がらんどうとなったムダに広い我が家において、父の世話はワタシの役割となりマシタ。ワタシの家事のスキルはとうてい父の満足のいくレベルではありませんでしたが、新しい人を雇っても長続きするはずもなく、さすがの父も最終的に諦めたようデス。そこには、妻と使用人に裏切られ、人間不信を発症したという背景もあるデショウ。…自業自得なんですケドモ。


 少し奇妙に聞こえるかもしれませんが、それからワタシはせっせと父の世話を焼きマシタ。イヤイヤではなく積極的に…デス。父が憐れだったからではアリマセン。父の金の恩恵に浴しているばかりでは我慢ならなかったのと、家事を磨いておけば、将来どこかのお屋敷にでも勤められると思ったからデス。残念ながらワタシの恩寵(オリジン)は髪を操る程度のささやかなものなので、生きていくには手に職をつけておく必要がアリマシタ。高いところに届いたり、家事に使うには便利な恩寵なんですケドネ。


 そんな頃のことデス。我が家に一人の女性が訪ねてキマシタ。伸びきった黒い髪に、飾り気のない薄汚れた白い服。女性は自らを「暴凶竜グリモア」と名のり、父と面会を求めてきたのデス。


 応対したワタシは最初、女性がどこかの病院から抜け出してきた患者かなにかだと思いマシタ。我が家にはこうして時折、物乞いや寄付を求めてやってくるなどの方がおられるのデス。お金が無限にあることは、広く知れ渡っていましたカラ。

 もちろん彼らに父がビタ一文すら渡すはずもなく、都度、使用人たちにあしらわれ、追い返されてイマシタ。しかし、使用人たちはもうイマセン。なので、仕方なくワタシは拙いながらも事情を話し、なんとかお引き取り頂こうとしたのですが、自称グリモアさんは頑として引く気配を見せてくれず、困り果てたワタシは渋々、父に伺いを立てに行ったのデス。


 予想通り、ワタシの説明の途中から父の眦(まなじり)はみるみる吊り上がり、いつものようにワタシを詰(なじ)りはじめマシタ。「愚鈍な売女の娘めっ!!いちいち聞かないと、そんなことすらわからんのかっ!!」…要約するとこのような内容デス。

 ひとしきり罵声を浴びながら、やれやれ、毎度のことながら実の娘になんという言い草だろうと思いつつ、父の元を下がろうとした時のことデシタ。突然ワタシへの怒声がやみ、不審に思うと父が目と口を大きく開いて固まっていたのデス。父の視線をたどって振り返ると、ワタシのすぐ背後には玄関で待たせていたはずのグリモアさんが立っておられマシタ。いつの間にか屋敷に入ってきてしまったようデス。


 人格はさておき、錬金術師としては不朽の才を持つ父には、真贋を感じる所があったのデショウ。あわててグリモアさんを帰そうとするワタシを跳ね除け、父は伏せるようにして頭を垂れマシタ。いわゆる土下座というやつデス。

 「愚かな娘が、とんだご無礼を」と叫びながら床に額をこすりつける…そんな下手(したて)の極みとなる父などはじめて目にするワタシは、卑屈とも形容できる姿に大いにとまどいマシタ。けれど、それでも、亡霊のように儚げに揺蕩(たゆた)うグリモアさんが、いかにも凄い人であるとはワタシは到底思えず、半信半疑でお茶の用意に走ったものデス。


 しかし、手の内からグリモアさんが取り出したモノを見て、のんきなワタシもようやく事の重大さを知りマシタ。恩寵の宝珠(オリジン・コア)…存在は知れど、図鑑でしか目にしたことのない夢の宝が、国すら買えると言われる宝珠が、彼女の手の平に握られていたのデス。


 グリモアさんの要求は、相応の金と宝珠の交換デシタ。ワタシには思惑は理解しがたかったのですが、グリモアさん曰く”我を屠る者への褒美(金)を用意したい”とのことで、父を訪ねてこられたそうデス。


 父は二つ返事で了承し、取引はワタシが驚くほどあっさり済むと、グリモアさんは煙が吹き消えるように早々と姿を消しマシタ。具体的にどのくらいの金と引き換えたかは、はっきりとはお答えデキマセン。少なくとも父の貯めこんでいた金は全て払い出し、屋敷はすっからかんになりマシタ。ですが、グリモアさんが去った後、父は高らかに哄笑しつつ「バカな女だ」と満足げに嘲ったのデス。


 ただ、この時のワタシは、ご不快に思われるかもしれませんが、正直言って、父と同意見デシタ。もちろん父とワタシのグリモアさんへの感情のニュアンスは異なりマス。無限に金を生み出せる父にとってはボロ儲けのバカな取引、ワタシからすればグリモアさんばかりが損をするバカな取引…という意味デス。


 付け加えるなら、父は昨今、内心で非常に憂慮していることがアリマシタ。それは、いつか金相場の暴落が起こるのではないかというものデス。

 父の唯一の価値は金を生み出せること、これは今現在、父にしかできない業ですが、将来どうなるかはワカリマセン。もしも他の誰かが父の錬金術と同じ高みに到達してしまえば、金は希少性を失うかもしれない、即ち、父自身を担保できなくなるかもしれないわけデス。


 なので、グリモアさんとの取引は、父にとってまさに僥倖そのものデシタ。恩寵の宝珠(オリジン・コア)によって父の資産の価値は不変のものとなったのデス。けれども、それだけに、それから、父は猜疑心を強めてイキマシタ。誰かが宝珠を狙っているのではないか、盗みにくるのではないか、奪いにくるのではないかと被害妄想にも近い考えに支配されたのデス。


 しかし矛盾しているようですが、父は事あるごとに、自分が宝珠を所持していると周囲へ吹聴してもイマシタ。

 まったくバカげた行為だとお思いになるデショウ?盗まれることを心配するのであれば、そもそも持ってるとを広めなければいいじゃないデスカ。…けれどそれはできないのデス。申し上げた通り、父の幸福は手にしたモノの価値自体には依拠シマセン。それはいかな恩寵の宝珠(オリジン・コア)とて同じコト。他人からの評価によってのみ幸福感を得るのですから、父の性質上、話さずにはいられないのデス。


 そのため、事件が起こるのは必然デシタ。


 父の話に引き寄せられるように、数日後の深夜、ワタシたちが寝静まる中、一人の物盗りの男が我が家に侵入シマシタ。といっても、結末から話してしまいますと、男の目的は宝珠ではなく金だったようデス。それどころか、宝珠が屋敷に在るとすら男は知りませんデシタ。

 男は貧しい小悪党で、どうやら以前からちょくちょくこうして盗みに入り、ワタシたちが気づきもしないほどの少しばかりの金を奪って生活をしていたそうデス。ですが、いつもであれば屋敷の至る所に無造作に転がっている大量の金も、この時ばかりはひとかけらもアリマセン。ぐずぐずと金の在りかを探るのに手間取るうちに、父に見つかるというヘマを犯しマシタ。


 父がどういう思考となったかは言うまでもないデショウ。宝珠を奪いに来たと勘違いをし、父は病的な怒りと共に男に襲いかかったのデス。からくも一撃を躱した男でしたが、父の形相に恐怖し、パニックを起こしマシタ。窓でも破って一目散に逃げればいいものを、屋敷中を駆け回ったのデス。

 そして、男は間の悪いことに、物音に目を覚まし、自室から出てきたワタシと至近距離ではち会わせマシタ。そこで起きたことは、今だからこそワタシもそう思うのですが、事故と言ってよいデショウ。


 恐怖にかられた男は短い悲鳴をあげながら、ほとんど反射的に、手にしていた護身用の短剣を、ワタシの胸に突き立てたのデス」



TIPS:短剣は急所に刺さり、エレハイムは即死した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。