第8話 禁句
「ほぼおらんな」
優芽が断言した
「そ、そうなの? モテそうな感じだけど…」
「他所から見たら、ウチはお嬢さま学校って思われてるみたいやから、男子は面倒くさって思うんちゃう?」
桜子がそれを聞いてくすっと笑った。
「そんな人はこっちからも願い下げやな。ちゃんとした男の子はちゃんと紹介されんと危ないし」
これもまた思ってたのと違う。今どき『ちゃんと紹介』ってどうすればいいんだ? 婚活アプリですら怪しいのに。
綴の『?』を感じた倉良が、
「私もずっと公立で共学だったから判るけど、女子だけだとやっぱり一種の緊張感はなくなるのよね。カレシがいても見える訳じゃないから焦りもしない。自然にまったりするのよ。文化祭も招待された人しか入れないから男子校の子もあんまり来ないし、たまたま同じ塾に通ってるとか、部活の大会で知り合うとかでないと、カレシ出来ないのよ」
「まあ1割か2割くらいちゃうか?」
「そうねえ、共学の半分以下って感じ?」
カレシだけが青春じゃないけどちょっと淋しい。あたしも少なくとも向こう2年はソロ生活か。学校まで歩いて10分じゃ出会いなんか望めないし、そもそも行き交うのは観光客ばかりだし、しかも日本人じゃないし。
ま、こうやって学校帰りにお喋りできる友だちは出来そうだし、怖れていたような魔女はいなさそうだし、贅沢は言えない。こんな風にクラスの人を一人ずつ知って行ければ、高校生活も満更ではなさそうだ。綴がつらつらと考えていると、桜子から弾が飛んで来た。
「西條さんのお家、お店やったはるんやったら、学校以外の出会いもあるやろうけど、カレシ出来てもべらべら自慢はやめときや。要らん反感買うても面白うないやろ」
「反感?」
「いろんな子がおるさかいにな。一応はクラスの仲はええねんけど薄っぺらい氷みたいや。ま、もうちょっと慣れるまでは様子を見とき」
なるほど。綴は桜子の話の捌き方に女王の貫禄を感じた。これが、もしや千年の地力なんだろうか。
その時、どやどやと男子高校生たちがマクドに入って来た。
「せやから今日はお前の驕りやろ」
「そんな約束はしてへんで」
「いやいやいやいや、鎌塚クン、証人もおるんやで。おまえがピシャっていかれたのを目撃したヤツが。どう考えても振られたんやろ、あれ」
桜子の顔が一瞬引き攣ったのを綴は見逃さなかった。綴が声の方を振り返ると、入って来た男子の一人が慌てて桜子から目を逸らした。次の瞬間に桜子はもう普通の顔をしている。優芽は男子の大声に迷惑そうな表情、倉良は全く我関せず。
うーん。何かありそうだけど…これも禁句か。桜子の言った通り、しばらく様子を見よう。
初日から魔界に足を浸した綴であった。




