第5話 カフェテリア
恐らく昼食は学生食堂や購買で何とかなるだろうと思っていたので綴は何も用意してこなかった。従って、誘って貰えたのは超ラッキーだ。京vsナニワの戦いに引きずられながらやってきた聖六角女学院のカフェテリアは、広くて明るくてきれいだった。中には中学生も多くいて、部活の関係だろうか、高校生の先輩に挨拶しているのが目に留まる。やはり県立高校とは違う世界だ。綴は倉良にうっとり囁いた。
「素敵ねぇ、学校とは思えない」
「でしょ? じゃあ説明するね。あそこの自販機で食券を買うと食券に番号が印刷されているから、その番号がカウンターの上のディスプレイに表示されたら取りにゆくの。キャッシュレスもオッケイだけど、使えないのもたまにあるから気をつけて」
「う、うん。すご…。現金はダメなの?」
「ううん、いけるよ。現金を学校に持ってこない子が居るからこうなったらしいけどね。ほら、盗難とかあったりするから」
「えー」
意外な理由だ。そうか。お財布持ってるのって時代遅れなのかな。焦りながら綴は自販機の前に立つ。
メニュー、いっぱい有り過ぎて迷う…。えと、え? これなんだろ? 綴は思い切って初めて見るメニューのボタンにタッチした。
木の葉丼。
丼ってつくからご飯ものに違いない。しかし葉っぱって何の葉っぱだろう。大葉かな。まさか、湯葉? いや京都なんだから、紅葉に彩られているのかな。期待が膨らむ。
綴は食券を手に、倉良らが確保したテーブルに急いだ。優芽の前にはうどん定食のトレイが既にあり、傍らの桜子は弁当箱を前にしている。桜子のお弁当箱は京娘らしく漆塗りの蓋に螺鈿の天の川が流れている。はぁー、さすがは古都っぽい。その桜子が目の前の優芽の昼ご飯を指さして、
「優芽はうどん定食とそば定食を交互に食べてんの?」
「交互ちゃうよ。4時間目に鉛筆転がして決めてんねん」
「鉛筆?」
「うん。毎日悩むの面倒くさいやろ。鉛筆って六角形やから、そこに『うどん定食』『そば定食』『親子丼』『オムライス』『日替定食』と、えーっと『カレー』やったっけ、を書いてあって、毎日4時間目に決めてんねん」
「へぇー。それ以外は食べへんの?」
「ううん。唐揚げ食べたーいって言う日は、鉛筆転がさんと唐揚げ定食頼むで」
「へぇ。合理的ゆうのか面倒くさがりゆうのか、優芽らしいゆうのか…」
「ウチのお母さんもやってるで。晩ご飯のメニュー書いた鉛筆、何本も作ってあって、まずはくじ引きみたいにその中の一本を選んで、ほんでそれを転がすねん」
「えー? すご」
「だってお父さんとかすぐに『何でもええ』とかゆうから、それが一番困るやろ。そうかゆうて給食みたいに一ヶ月分を先に考えんのも面倒やろ。結構ええ方法やと思うで」
「主婦の知恵やねぇ」
「じゃあさ、季節メニューみたいなのは無いわけ?」
倉良が興味津々に割り込む。
「そうゆう季節鉛筆があるねん。冬は『鍋』とか『おでん』とか入った鉛筆」
「なるほどー」
一同が感心していると桜子が綴の方を見て聞いた。
「西條さんって名前、何やったっけ」
「綴です。糸偏に又が四つで、つ・づ・り」
「ええ名前やね」
桜子が無表情のまま呟く。優芽は唇を尖らせた。
「そうかも知れんけど、意味深なんちゃうん」
「おばあちゃんが文房具屋さんをやっててね、書くってことに拘ったみたいで、お母さんの名前は美しい筆で『美筆』で、そもそもおばあちゃんの名前は書道で使う『硯』なの。前の高校の友だちは『ステーショナリーファミリーかよ』って笑ってた」
「確かに。横浜人も上手いことゆうなぁ。ほんで、綴は何を頼んだん?」
綴は食券をひらっと見せる。
「木の葉丼」
「しぶっ!」
優芽が唸り、倉良が食券をのぞき込んだ。
「それ、謎のご飯だ。私も頼もうかと迷って未だに果たせてない」
「倉良も知らんの?」
また無表情で桜子が聞いた。綴は勢い込んだ。
「たぶん、京都特有の、ほら、紅葉とかあしらった風流なご飯じゃないかなって思った」
優芽が吹き出した。
「ぶっぶー」
え? ち、違うの?
その時、綴の食券番号 248 が読み上げられてディスプレイに表示された。
「まあ見てのお楽しみやな」
「健康にはええんやで」
「あ、私も取りに行こう」
三様の声に送られて綴はカウンターへ急いだ。




