第43話 食べていいの?
聖六角女学院高校の近所に『お茶漬け屋さん』がオープンした。聖六角の女子中学生、女子高生の間では噂ひっきりなしである。『おにぎり屋さん』が全国的にブームであることは既知だが、米不足が現実になる中での美味しいお米のお茶漬け屋さん、
「行こ行こ! 今日行こ! 休みの日ぃは行列で入られへんねんから、平日の三時半って、一番穴場時間やん!」
朝から優芽がやかましい。米どころ富山出身の倉良も乗っている。四人はその日の帰宅路、マクドをスルーしてお茶漬け屋に直行した。しかし、綴は一人不審顔である。
「あのさ、京都でお茶漬けって食べていいの?」
綴がそーっと聞く。
「なんで? あかんの?」
「ううん、だってお茶漬け食べろってことは、とっとと帰れって意味だって言われてきたから」
「あははは」
優芽が楽しそうに笑う。
「それって『ぶぶ漬けでもどうどす』とか言うあれやろ? そんな話、ほんまにあるんかな。なぁ桜子?」
「あれは都市伝説。ウチかて聞いたことない。大体今どき『ぶぶ漬け』とは言わへんやん。お茶漬けやろ」
「そ、そうなの??」
京都に越してくる前に散々クラスメイトから教わった京都処世術。その筆頭がこの話だったのだ。
「じゃあ、まじでお茶漬け、食べていいのね!」
優芽が綴の髪をくしゃくしゃ撫でた。
「当たり前やろ、食いしん坊」
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四人は中途半端な時刻にお茶漬け屋入った。優芽の読み通り、店は空いていて、四人は入口近くの四人掛けボックス席を取ることが出来た。お茶漬けはほうじ茶と出汁の二通りがあり、具は梅昆布・梅しらす・高菜山菜・明太いくら・鮭いくら・焼穴子から選べる。大騒ぎの上で各人違ったメニューを選び終わった時、男子高校生が二人、店に入って来た。
「うわ」
桜子が驚いている。綴が振り向くと、そのうちの一人は万年筆の下地を塗ってくれた桜子のカレシ、隼太だった。隼太も驚いている。綴は、やはり驚いた様子でこちらを見た連れ合いの男子高校生と目が合った。
え、京都の男子ってやっぱイケメン率高いのかな。その男子も眼鏡を掛けているものの、知的な小顔だ。桜子のカレシを置き去りに店の奥に入って行く後ろ姿を見送った綴は、何故か雛人形の『お内裏様』を思い浮かべた。すると、置き去りにされた隼太が桜子に向かって声を上げた。
「え、なんでおるん?」
「なんでって、ここ学校の近くやもん。隼太こそなんでここへ来たん?」
「いや、俺はツレが塾へ行く前にメシ食う言うから、付き合うて来た。俺もヤケ食いする言うて」
「ちょ、桜子、もしかして?」
優芽と倉良は怪訝な顔をしている。
「あ、ごめん。カレシ」
「えー。思たよりイケメンやん。流石は京のお嬢やな。綴は知ってたん?」
「うん。別件で知っていました」
「えー、ずるぅ。なんで言わへんのー。せやけどお茶漬けヤケ食いって、締まらん話やな。何やらかしたんよ?」
優芽は桜子にズケズケと失礼なことを聞く。
「ま、ウチも庇い切れへんかったくらいのザマやったからな」
「え、なになに?」
「初めてお椀に漆塗ったらな」
「うるし?」
隼太は手を振り回した。
「お、桜子! ちょう、やめてや! 恥やさかい」
「一時のことやん。今度はもっと上手くなるんやろ?」
「ま、そら、頑張るけど」
「ほんならええやん。ウチが二度とこんな話せんでええように、修行しよし」
「ああ…」
頭を掻きながら、隼太はツレとやらを追いかけて店の奥の方へ歩いて行った。
「お待たせしました」
そして、お茶漬けが運ばれてきた。




