第44話 ぶぶ漬けの味
「せやけど桜子。さっきの会話はもはや夫婦やんか」
優芽が揶揄すると桜子は照れて頬を染める。
「あー、桜子、なんか綺麗に見える。恋の力なんだねー」
倉良も言いながら一緒に赤くなっている。しかしそれより綴は話の続きが気になった。
「それで、お椀がどうしたの?」
三人に桜子は顛末を軽く打ち明けた。
「ふうん。若気の至りみたいな感じ?」
「ペンの下地は上手だったもんね」
「ペンはお父さんが手伝わはったと思うねん」
「それでそのお椀は桜子にとっての宝物になってるんだよね」
「うーん。単純に勿体ないなぁって思て。ちょっと平べったいけど使えるし」
綴は考えた。平べったいお椀は文房具として使えないのか。うーん…、浮かばない。桜子は付け足した。
「それにな、高台がないねん。一番下のところ」
「ああ、輪っかみたいなやつ?」
「そうそう」
「西洋食器だね、それ」
いろんな感想が飛び交う。形だけだったら、食器として別の用途で使えるのではないか。お茶漬け屋さんの食器はみんな高台とやらが付いてるけど、サラダボウルとかはないよね。
「桜子、形以外は欠点ないのよね」
「まさか。下地も塗りも粗い。表面に凸凹がいっぱいあるねん」
「凸凹…。それは致命傷かも」
綴は考えた。普通のお椀は真っ黒だけど、食器と考えたら模様をつけて凸凹も活かせるかな。只今万年筆の絵付け中の絵描きさんが思い浮かぶ。ウサギが好きな絵描きさん。
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その頃、奥まった席で隼太はお茶漬けを掻き込んでいた。桜子の友だちの前ではいい晒しものだった。身から出た錆とは言え恥ずかしい。ツレは大して興味なさげに単語帳を眺めながら食べている。隼太はボヤいた。
「おまえ、気楽でええな。女子には興味nothingっちゅう顔つきや」
「ん? あの子ら、隼太の彼女の友だちか?」
「ああ、いつもツルんでる子らやと思う。大阪と富山と横浜の子や。横浜の子は家が文房具屋さんやで」
「ふうん。横浜、か」
こいつ、志望校の場所にしか興味ないんかいな。気楽でええな。志望校まで一本道やもんな。そのまま歩いて行ったらええだけやん。やっぱり職人との両立と言うのは難しいもんや。二本の毛色の違う道を同時に歩かんとあかんねんから。
お茶漬けにはしゃぐ四人の女子高生とは違い、隼人が掻き込む『ぶぶ漬け』の味は苦かった。
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その日、綴は綴った。
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ったく誰だよ、ぶぶ漬け食べちゃダメって言ったのは! てか、いろんな子から聞かされてた気がする。あれは横浜常識だったのかー。いや~美味しかったよ。あたしは梅昆布のほうじ茶のお茶漬け。京都っぽいでしょ? お代わりしたかったけど、流石に桜子姫の前では言えませんでした。美味し過ぎて桜子のノロケ話、飛んじゃったよ。そうそう、桜子のカレシと一緒にいた男子もクールでカッコ良かった。都はレベル高いのかな。そう言や桜子は偏差値も高い男子校とか言ってたな。あー、でもでも思い出すのはやっぱお茶漬けだー。花より団子、今度は穴子茶漬け食べてみたい♡
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