第41話 絵描きの覚悟
綴から連絡を受けた伊佐九は、土曜日に『カノジョ』である水切 楓を連れて百花苑を訪れた。以前のことがあるからなのか、楓も緊張気味である。その目の前に、綴は隼太が仕上げた漆塗り万年筆を十二本並べる。自己紹介も抜きに、楓はその十二本にじっと見入った。
「きれいやな。全部違う色なんや。十二色か。ここにイラストを描いたらええんやね」
「はっ、はい。あの、可愛く京都風に」
「あんたの京都風ゆうのが、どんな感じか判らへんけど、こっちが思う京都風でええんやね?」
小さな棘を含んだ言葉が飛んでくる。綴は年齢差以上の圧を感じた。
「いえ、えっと、外国の女の子にもウケるような可愛いのを京都っぽいモチーフに混ぜて描いて頂けたら」
楓は綴を一瞬睨んで、そしてゴソゴソとスマホを取り出した。
「それってこんな感じ?」
そこには紅葉と石灯籠を背に佇むウサギが描かれていた。絵本の1頁のようなイラストだ。
「カワイイ…。はい、こんな感じです。ウサちゃんがお好きなんですね」
楓は頬を赤らめつつ、
「まあね。ほんなら2ヶ月ほどかかるけど、それでええね?」
「えー、そんなにかかるん?」
背後で伊佐九が声を上げた。
「当たり前やん。十二本あるねんで。週に一本以上描かなあかんねんで。実習の課題も描きながら」
「あああ、そうやな、そらそうやな」
歳上の伊佐九が一方的に押されている。もしや桜子と隼太さんもこんな感じなのかな。綴は上目遣いで二人を見た。
「それで作業賃はどうなんの?」
唐突な質問に綴は詰まった。そうだ、それ、全く考えてなかった。漆は練習とか言ってたから桜子からはそんな話、出なかった。でもイラストはお願いしている立場なんだ。
「タダでは出来ひんで」
「そ、そうですよね…、えっと…」
その時、空気がふわっと変わり、
「ちゃんとした絵ぇやったらバイト代払うで。何時間作業したか、有田はんがちゃんと見て、出しよしや」
お、おばあちゃん…。
「はいっ」
いつの間に現れた硯の威厳に、三人の返事が重なった。
声に骨がある… 楓は瞬間感じ取った。前回も感じた圧、それは百年超えの暖簾を守っているこの人の矜持なのだろう。
楓は既に下を向いて仕事をしている硯を上目遣いで伺った。この店でいい加減な仕事は出来ない。ひょっとすると、この十二本のペンが自身の将来を占う試金石になるかも知れないのだ。下地を整えた漆職人に恥ずかしい絵は描けない。
楓はそれ以上の言葉を発することないまま店先に一礼し、伊佐九を待たず歩き出した。
その日、綴は綴った。
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やっぱ鬼でした。有田さんの彼女さん。あたしも抜けてるなー、お仕事頼むんだから、そりゃお金かかるよね。彼女さん、つまり楓さんに言われるまで、あたし何も考えてなかったわ。おばあちゃんがいなかったら破談になるとこだった。にしても、あんなに可愛い絵を描く人が、いや、それだからなのかな、仕事の鬼なのは。この話は何となく皆さんの好意とか機転で進んでいる感じがする。あたしは何やってんだ? でも信じるしかない。そう、信じるものは救われるって学校の朝の礼拝で教えて頂きました。お願い神さま。綴は都合のよい時だけミッション系JKになるのです
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